パラサイト 半地下の家族
第92回アカデミー賞、第72回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞したポン・ジュノ監督による話題作。韓国映画が、カンヌとアカデミー賞、両方をとったとすごい話題でしたね。やっと見てみました。大きな賞を受賞した映画は、受賞を知ってから見るとバイアスがかかって、さぞかし面白いのだろうと期待してしまいます。そうすると、素直に見れないので受賞を知らずに見たかったですが、そういうわけにもいかないね。
期待値あがった状態で見た結果、まあまあよかったかなみたいな感じでした。ものすごく良くもないけど、悪くもない。普通に楽しめる映画かなと。
ということは、受賞を知らずに素の状態で見たら、すごくおもしろく感じたのではないかと思います。
韓国の階級社会の映画。半地下物件に住む家族が、大豪邸に住む金持ちの家に、家庭教師、運転手、家政婦としてもぐりこんでいく話です。
どんなふうに潜り込むのかというと、まず息子が友人の紹介でお金持ちの娘の家庭教師になります。
面白かったのが、お金持ちは基本コネで判断するということです。最初、大学卒業証書を偽造してもっていくんだけど、そういう書類は見ない。
誰々の紹介だからっていうところが重要。息子は勉強ができるし、人当たりもいいので気に入られます。
それを足がかりにして、息子が妹を下の子供の美術家庭教師としていい人がいると紹介。妹がいい運転手がいると父親を紹介。
父親はいい家政婦サービスがあると紹介し、母親が家政婦におさまる。今いる運転手や家政婦を追い出すための計略がうまくいって、一家全員が、他人のふりして金持ちに雇われていきます。
コネ、紹介でまわっていくお金持ちの世界がおもしろいです。
この半地下に住んでる家族、全員が何気に優秀なんですよ。息子は受験勉強できるし、娘は画像処理のスキルもってるし、父親はさまざまな職を経験してるので、運転手も普通にこなすし、母親は肝っ玉座った女傑で家政婦をきっちりできる。なんだか乙羽信子に似てました。
彼らは不況だったりコネがなかったりで、うまくいかなかった苦難の道を歩んできたからなのか、表面を取り繕って相手に気に入られようとするスキルに長けています。パリッとした小綺麗な格好して、物腰も優雅に演じる。
だが体に染み付いている、半地下の匂いだけは取り繕えない。そこが面白かったですね。
いくら見た目をかえても、にじみ出てくる本質は隠せないって感じですか。家族の仲がよくて和気あいあいしてるので、悲壮感はありません。富裕層にうまく寄生しておこぼれをもらうことに成功した一家は、一息ついて喜びます。
ここまでが前半。なんだか楽しいコメディ映画だなって感じです。ハリウッド映画のオーシャンズ11系の犯罪計画ものみたいな雰囲気ですね。
前半、楽しげな感じでよかったんだけど、ひとつどうかなと思ったのは、パラサイト一家が小綺麗すぎるところかな。スタイリッシュできれいな映像が仇になってる。映像がスタイリッシュすぎる。半地下の部屋が、なんだかオシャレな部屋にも見えてくる。
酔っぱらいが立ち小便するようなとこだし、消毒の噴霧があったり、水はけがよくなかったり、部屋は狭いし暗いしで、
いい環境ではないのはわかるんだけど、映像がかっこいいので、ひどいように見えないのがどうなのかなと思いましたね。
臭ってこない。お金持ちの豪邸と半地下で同じテイストの映像になってるのが残念ポイントかな。
ここからネタバレ
後半は一転暗く血なまぐさい展開になります。お金持ちに寄生していたのは、一家だけではなかった。前の家政婦もそうで、夫を豪邸の地下にある隠し部屋で暮らさせていたのです。キャンプに行ったお金持ち家族の留守中に、豪邸で宴会してたパラサイト一家。
そこに前の家政婦が忘れ物があったといって訪ねてくる。
地下にいくと、隠し部屋への扉があって、そこにはその家政婦の夫が住んでいた。借金取りから逃げるためにここにだまって住まわしていたのです。
まあ、それでパラサイト一家と隠し部屋夫婦の争いがあり、そこにキャンプを大雨で中止した金持ち一家が予定を変更して帰宅ということになって、ドタバタとする。
なんとかバレずに脱出できた父と息子と妹だが、大雨で増水して半地下部屋は水まみれ。何もかも流され、着の身着のままで体育館に避難してるところに、
お金持ちから、息子の誕生日パーティーに参加するように電話がくる。
最悪ひどい精神状態のときに、パーティー?ってなるんだけど、隠し部屋夫婦のことも気になるし、行かないわけにはいかない。そのパーティーで惨劇がおきるっていうわけです。
このパーティーで騒ぎになるまで、お金持ちのほうは何も気がついてないっていうのがおもしろいです。
富裕層にとって、下層のやつらは完全に別世界の人たちで、関心もないし、お金で雇った使用人以上の感情は一切ない。
ソン・ガンホが家族サービス大変ですねって金持ちにいうんだけど、金持ち側は今は勤務時間になるんだからこれも仕事だぞと冷たく言い放つ。
辛さをわかる、同情する、シンパシーを感じるという関係ではないというのが、はっきりとここでわかっちゃう。こっちとあっちに大きな壁がある。
いやー、やっぱりそういうことですよねえ。
成功者、失敗者、お金持ちである、貧乏である、若い人、年とった人、男、女と人にはいろいろとありますが、自分とは違う人間にたいする共感する気持ちがないことが、もっとも人を傷つける。
嘘でも表面だけでも、わかるよとお互に共感をしめすことができれば、惨劇は避けられたのかも。
最後は物悲しいエンディングでした。コメディで始まって、惨劇があって、最後は悲哀でしめる。3幕構成というやつでしょうか。
電灯のオンオフのモールス信号で父と子が意思疎通するってポエムな展開ですね。そして父を迎えに行くためには、成功者になってあの豪邸を手に入れればいいと夢想する。
成功者にならなければ、家族が一緒に生きられない。そんな社会に生きてる。なんとも悲しい終わりかたでした。
見終わってみると、これは賞をとる映画だなと思いました。いや、とってるのわかってるからそう思えるのかもしれないですが、映像の質が高く、エンタメ要素も社会的要素もあり、最後は悲哀でしめる。
なかなかよかったんではないですかね。
賞をとったのに面白くないという人がたまにいますが、受賞作品=おもしろい作品というのは成り立ちません。
エンタメとしてのおもしろさというのは、ひとそれぞれなので受賞するかどうかのポイントにならないと思います。
その時代のタイミングにフィットする要素があるかどうかが受賞のポイントになると考えると、パラサイトは受賞してもおかしくないと感じる映画でした。
DMM動画:パラサイト 半地下の家族