|
うなぎ
確かカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したんじゃなかったっけ。今村昌平監督、役所広司、清水美沙、佐藤充、柄本明、常田富士男、哀川翔、倍賞美津子、田口トモロヲ、市原悦子、小沢昭一出演の1997年の作品。久しぶりに観てみたんすけど、賞をとるような映画じゃなかったですね。つまんないとかじゃなく、普通の人情ドラマって感じで、ちょっと陳腐さを感じるぐらいの気取らない作品で、なんか賞とかもらう大げさな映画では全然なかった。
高尚な雰囲気をかもしだして、堅苦しい感じの映画が賞とかもらうんじゃないのかっていうイメージがあるんだけど、こういううなぎみたいなのがカンヌで賞をとるって意外な気がしました。寅さんがアカデミー賞をとるような感じ。
しかも、シリーズの中でそんなにおもしろいやつじゃないのが受賞して、この監督の映画、他にもっといいのがあるんだけど、みたいな。まあ、賞っていうのは、そのときのめぐりあわせが大きいものだから、いいタイミングで世に出たってことっすかね。
奥さんの浮気を疑い殺してしまった役所広司が服役して仮出所。刑務所で理髪師の資格をとって、ボロ屋を借りて床屋を始める。
ペットのうなぎにしか心を開かない役所広司。隣の船大工の佐藤充、保護司の住職、常田富士男、チンピラの哀川翔など近隣の人たちと、不器用な交流をする。
ある日、薬を飲んで自殺している清水美沙を発見して助けたことから、なんか訳ありの清水美沙が役所広司のところで働き始める。まあ、それでいろいろとあって、最後は役所広司の閉じていた心の扉が開いて、過去にいろいろとあったけど、自然体の役所広司、清水美沙の新しい関係が始まっていくんだなみたいな、ハッピーエンドを迎えます。
主人公の役所広司がずっと自分の気持ちがわからずに悩んでモヤモヤし続けて、いろいろあってその靄がはれる物語って感じですかねえ。
役所広司がずっと心ここにあらずって感じなんすよ。奥さんを殺したこと、そうしたことが自分の中で整理ついてない。奥さんのことを大事に思っていたから、浮気を許せなかったから殺した。はたしてそうなのか。夜釣りに行ってる日に、奥さんが浮気してますよという手紙がきてそれを確かめるために、早く家に帰って浮気現場を目撃するんだけど、
はたしてそんな手紙がほんとうにあったのだろうか、俺の嫉妬がうみだした妄想じゃないのかとか思いだす役所広司。
刑務所で一緒だった柄本明が役所広司につきまとって、嫌がらせをしてくる。人殺しのくせに、店なんか始めて清水美沙を連れ込んでうまいことやりやがって、気に食わないみたいな。
ただの嫌がらせ野郎なのかと思いきや、役所広司が気にしてて心の奥に隠してることにズバズバと切り込んでくる。役所広司は自信をもてない幼稚園児だから、妻を満足させられなくて浮気されるんだとか。
嫉妬することが恥ずかしいと思ってるから、すかして見えてむかつくんだとかさ。役所広司が言われたくないことをズバリと指摘してくる。まるで役所広司の深層心理を擬人化したような柄本明。
なんかね、この映画、ただの人情ドラマのようで、ところどころで幻想的というかマジックリアリズムっていうかね、幻想と現実の境目があいまいなシーンが出てくるんすよ。
冒頭の役所広司が妻の情事に乱入して妻に包丁をつきたてるシーンの妻の反応がおかしい。驚くでもなく、泣きわめくでもなく、逃げようとするわけでもなく、こうなることがわかってて、そのときが来たのをうけいれてるように見える。
浮気を告発する手紙は奥さんが書いたんじゃないだろうかとか思っちゃう。実際はどうなのかわからない。役所広司がほんと夢うつつなんすよねえ。
清水美沙のほうは、ロクデナシの男と金の問題でこっちは現実感がある。夢うつつな役所広司が、周囲の人たち、とくに清水美沙とかかわることで、現世に戻ってくる物語なのかもしれない。
DMM DVDレンタル:うなぎ