あれはかなり優作アレンジがなされた野獣死すべしで、
大藪春彦の原作とは違うテイストになってるらしいですね。
原作の伊達邦彦はあんなに病んでないらしい。
確か、かなり前に原作を読んだことあるんだけど、
覚えてないのでどんぐらい違うのかよくわからんけど、
この仲代達矢の野獣死すべしが原作には近いらしいですね。
仲代達矢のドヤ顔。
おれは犯罪をおかすことになんの戸惑いもないし、
邪魔なやつを始末するのも躊躇しない、
ニーチェでいう超人なんだぜっていうドヤ顔が決まってます。
ギョロ目でニヒルな笑みをうかべる仲代達矢。
これが本来の伊達邦彦かあ。
これにくらべると松田優作バージョンは病みすぎですね。
というか全然方向性が違うのか。
日本的な湿っぽい犯罪を否定し、
乾いた犯罪のための犯罪をやってのけるクールな男というのが
原作に描かれていた。
それを精神的に病んでいるという要素を追加して
湿っぽいムードに引き戻したのが松田優作バージョン。
だから面白いんだなあ、あの映画。
クールな犯行なのにやってる本人はクールになりきれず精神崩壊していく。
そのへんが味になってて深みがあるように見えるわけか。
このモノクロ、仲代達矢バージョンは、
ストレートに作ってあるので物足りなく感じますね。
好青年を演じ、人を利用して殺すことになんの呵責もなく、
刑事に目をつけられても尻尾を掴まれることなく、
海外留学に出立。
完全犯罪を成し遂げさっそうと日本を後にする。
まあ、ある意味狂ってるといえば狂ってるんだけど、
本人はいたって精神健全で健康的なんですよ。
飛行機で機内食のステーキをうまいうまいと頬張る仲代達矢。
刑事を殺し、賭場を荒らし、教授を爆破し、大学の授業料を奪い、
共犯者を始末という血なまぐさい犯行をしてきたやつとは
全然思えない。
そんだけクールで乾いた心の持ち主ってことっすね。
まあ、でも犯行を知る女を消さず刑事に手がかりを残したのは、
彼も冷徹に徹することはできてないということかもしれないけども。
大金をあげたから口止めできてるってことなんかな。
面白いのが好き勝手に犯罪をやりまくりの仲代達矢が
何もかもうまくいって、
人生の春を謳歌するのにくらべて、
彼を追う刑事の実にしみったれたこと。
刑事の給料じゃ、一人食っていくのが精一杯。
自信がなくて彼女に結婚しようとも言えずに鬱々としてるわけ。
同僚刑事の東野英治郎が子沢山でいつも金なくて
働き詰めできゅうきゅうしてるのを見て、
俺もこうなるのかって絶望してるんすよ。
彼女にもきついこと言われちゃいますよ。
二人一緒になったら生活できるかどうかはわからないし、
子供ができても苦労するだろうけど、
それでも結婚して一緒にやっていこうと
びしっという気概がないのがあんたのダメなところだって言われちゃう。
結局、ダメなんだよなあって悩み続けて時間だけが過ぎていく。
そうなっちゃうのが凡人の悲しいところですね。
仲代達矢は後先どうなるかなんて悩んじゃいない。
ただやるんだということを迷いなく思ってる。
だから案外、無茶がうまくいくっていうね。
女にももてちゃう。
この対比がおもしろかったですね。
真面目に生きてるけど、不安だらけで行動力がなくてうまくいかない凡人と、
不真面目、欲望のままに悪いことしてうまくいく悪人超人。
これは映画や物語だからっていうことではなくて、
リアルでもそうなのかもしれない。
わがままに自己中心的にやりたいようにやりたいことを
迷いなくできる人間が成功する。
自信満々な言動の人が魅力的に見えたりしますよね。
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