ポルシェを焼く「バーニング」
なにか起こりそうな不穏なムード、
いや、起きているんだけど、自分だけが気がついていないのかもという
不安なムードが最初から最後まで続く映画。
というかそれだけを描いてる映画。
こういうのが嫌いな人にとっては、
なんにもないじゃん、なんもおこってない、
なんにもないまま終わった、いつ盛り上がりがあるのか、
みたいな感想になる。
こういうのが大好物な人にとっては、
素晴らしい緊張感のある演出の傑作、
あれがこれのメタファーで、あのシーンのあれはこれで
深い意味を暗示しているとかなんとか
どうとかこうとかで最高!っていう感想になります。
ポエムみたいな語りで
いかにいい作品であるかみたいなのをしゃべる人多いだろなあ。
気分はムラカミハルキ。
原作は村上春樹の「納屋を焼く」という短編小説なんだっけ。
なんか村上春樹っぽさはありましたね。
男がぼんやりしてるだけで、
女の方から積極的によってきてセックスするとか、
パスタをゆでるとか、
猫が存在するのかしないのかとか、
井戸に落ちるとか、
そういうのが散りばめられてて村上春樹ワールドっぽさを
描き出してました。
夕暮れ迫る時間にマイルス・デイヴィスの死刑台のエレベーターをBGMに
上半身裸で踊る女の子とかハルキっぽくてよかったなあ。
留守中の猫の餌やりを頼まれて、
部屋に行ってそこで思い出しオナニーするとか、
イカ臭いところも村上春樹っぽくてよくできてました。
村上春樹といえば、すかした感じとイカ臭い感じが特徴ですよね。
主人公がすかしてて、やたら射精するイカ臭いやつ。
この映画ではポルシェの男がすかしてる担当で、
主人公の男がイカ臭い担当かな。
村上春樹っぽい要素をうまくばらして
部品として使ってうまく再構築してる。
なにかあるぞみたいな雰囲気。
なにかすごいぞみたいなムード。
そういうのを醸し出してる。
ほんとにすごいとか、ほんとにこうだとかいうんじゃなくて
何かがすごいんだろうというムードを醸し出してるのがいい。
実際のところこうでしたみたいなはっきりしたことは
描かれません。
ポルシェの男が連続殺人犯なのかどうなのかはわからない。
ただの女たらしで、女性たちはまたアフリカかどっか
遠くに行ってるだけなのかもしれない。
ムードを楽しむ系かなあ。
遊んで暮らして、お金に困ってない華麗なるギャツビー族と、
仕事がなく、バイトでしのぎ、
番号で呼ばれて使い捨てされるしかない未来のない貧困族。
光と影みたいな対照的な二人の男の間を揺れ動いて
どっかに消えてしまう女。
泥臭い社会の縮図を感じさせるような設定を
乾いたタッチで描くと
なんだかすごく魔術めいた謎めいた感じに見えるね。
おもしろい匂わせ映画でした。
DMM動画:バーニング 劇場版