けど、見ていくうちに、もうね、涙がなぜか出てくるんだよなあ。全然、感動的なシーンでもない、泣けるようなシーンでもないところで、涙がでそうになってる自分に驚く。
映画の作りとしては、現在の年取った寅さんファミリーたちのシーンがあって、彼らがそういえばこんなことあったなって昔を思い出すと、過去の男はつらいよのシーンが流れるという構成になっている。
それがね。泣けるしかないだろっていうね。もう話がどうこうとか、物語どうこうじゃなくて、時間の流れを感じて泣けてしまう。もうこんなに時間がたったのか。あのときのあの思い出の日々はもうこんなに遠い昔になってしまったのか。その時間の流れに涙してしまうのです。
刻の涙を見た。こんな作品、男はつらいよじゃないと作れない。長期にシリーズを重ねた長寿作品ならではの利点を生かした作品でしたなあ。まあ、これ単体でどうかというと、全然いいとは思わないんすけどね。
オープニングの桑田佳祐が意味不明というのもあるし、吉岡秀隆が感極まったときに、目をギョロリとさせる演技がどうかと思うし、後藤久美子とのやりとり、最後のキスもなんだかよくわからないし。
吉岡秀隆はゴクミに奥さんが死んでいるのをなぜ黙っていたのかがよくわからない。いらぬ気を使わせたくないとかなんとか言ってたけど、黙ってるほうが不自然じゃないか?みたいな。最後、空港で実はと告白する吉岡秀隆に、ゴクミはいつもみつおくんはそうなんだからって、感極まってキスをするんだけど、どういう意味のキスなのかいまいち不明なんです。
吉岡秀隆は脱サラして専業作家としてやりはじめた新人作家。奥さんは6年前に死んで今は中3の娘と二人暮らし。編集の池脇千鶴が熱心に仕事も私生活もサポートしてくれている。
妻の法事でみんな集まったときにそろそろ再婚でもという話になるが、吉岡秀隆はそんな気持ちにはなれない。そんなときサイン会をしている吉岡秀隆のもとに高校生のときの恋人だった後藤久美子が偶然現れる。
ヨーロッパに移住しそこで結婚、国連の職員として働いているゴクミ。懐かしさに花を咲かせる二人。日本滞在中にゴクミは施設に入っている父親を訪ねる。運転手としてつきそった吉岡秀隆はゴクミとゴクミの母、夏木マリ、父親の橋爪功の複雑な家族関係を目にし力になろうと思う。
初恋の相手と焼けぼっくいに火がつくのかと思いきや、そんなことはなく空港で別れる二人。いろいろなことが起きた数日間。そうだ、ぼくの寅次郎伯父さんもいろんな人といろんなつながりでいろんなことを思ったに違いない。吉岡秀隆の次回作で寅次郎おじさんのことを書こうとパソコンのキーを叩いた。
そんな感じで現在進行している物語は、よくわからない物語なんすけど、現在のシーンに過去の作品のシーンがうまいテンポで配合されているので、見てるこっちは涙が出てきてしまうのです。
浅丘ルリ子もでてきて、寅さんと結婚すると決意したこともあったけど、冗談だろとはぐらかされて、ついそうだと答えて実現しなかったという話をする。伯父さんはいつもそうなんだと憤るみつおくんですが、みつおも寅さんと似てるとこあるんだよねえと、そんなこともあったなあみたいに懐かしくなる。
さくらが電車に乗る寅さんを見送るシーンも印象的な別れのシーンだったなあと泣けてきちゃうし、メロンのくだりはおかしくて楽しくて人間味あふれるシーンでほっこり。これまた涙が滲んてきちゃう。
最後は歴代のマドンナたちのシーンが連続して雪崩のように映し出される。もうね、涙でちゃうんだよなあ。いろんなことがあったということだけで、泣けてしまう。
年輪というかさ、人の歴史っていうかね。すべて諸行無常という時間の流れの重み。そういうのを感じちゃうから泣けるしかないのです。
年取った前田吟と倍賞千恵子。家に老人用の手すりとか設置してあるのを見たあとに、若いときのプロポーズのときのシーンが出てきたりするのを見ると、もうね、たまらないんすよね。
ああ、若い二人が情熱的に思いあって一緒になって何十年も過ごしてきて、年取っていったんだなって思うとね。多くの時が流れたというのが、ほんとウルっときちゃうわけ。そしてあのときは渥美清演じる寅さんがいたけど、今はいない。
寅さんにぼくの立場になって考えてみてくださいよという前田吟に、キョトンとした顔で、何を言ってるんだ、俺はお前じゃないんだから、俺が芋食ったらお前がぷって屁でるのか?っていう渥美清が最高です。
乱暴だけど真理をついてるような気がします。
そういうのを見てるともう泣けるしかないだろっていうね。
始まったときは、どういう映画なんだろってちょっと心配だったんだけど、見終わってみれば、懐かしの思い出アルバムとしてよく出来た映画でよかったです。
まあ、これは男はつらいよシリーズを何本か見てて、寅さんファミリーのことを多少知ってる人じゃないとダメでしょうね。知らない人の子供の成長アルバムを見せられてもピンとこないのと一緒で、寅さんファミリーにたいしていくらか親近感をもってる人じゃないとダメだろう。
美保純がコミカル演技してるのも、父親がタコ社長でコミカル担当だったというのを知ってないと、変な演技してるなあとしか思わないしね。美保純の息子がまた変な演技してるんだよなあ。
ブルース・リーかぶれな変なやつっていう描かれ方してて、あれは2代目寅さん的なことなのだろうか?寅さんのスピリットが彼に受け継がれているみたいな。よくわかんないっすけどね。
ゴクミの演技も硬い。若いときからそんなに柔らかい自然な演技はしてなかったけど、今回のゴクミはブランクがあるからなのかカチカチにかたい演技してました。
でもそれがなんか日本を長く離れて海外ぐらししてる人っぽさだともいえてこれはいいかなって。なんかゴクミが外国人に見えたもんなあ。日本語久しぶりにしゃべった人みたいに見えた。
それが実際のゴクミの人生の歴史を感じさせて味わい深く見れたね。
現在の寅さんファミリーの老いと過去の男はつらいよでの若々しいファミリーの姿がうまく並べられてる構成のうまさですね。演出、編集のうまさで見れた映画でした。
なんかこの映画のアイディアを横尾忠則が山田洋次に提案したのに、横尾忠則は声もかけてもらえずいつの間にか映画が出来てたとかで、ご立腹してましたね。過去の寅さんの映像を使ってつなげば寅さんの新作が作れるというアイデア。
あれかな。横尾忠則は「家族はつらいよ」のほうでオープニングロールやポスターなんかをやってるので、寅さんでも一緒にやれると当然思ってたのに、呼ばれなかったから怒ってるのかな?
横尾忠則のほうは山田洋次と親密だと思っていたけど、相手のほうはそうでもなかったみたいな。なんかそういう外野でのニュースも長く生きているといろんなことがあるなあって感じで、この映画を味わい深くするスパイスになってますね。
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