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いやー、すごかった。
大林宣彦監督の映画なんすけど、これ大昔に見たことあるんです。
高校生ぐらいのときかなあ。
それでさ、記憶の中では死んだお姉ちゃんの幽霊と過ごした
ちょっと奇妙な季節の青春映画みたいな感じだったんすよ。
いい感じのファンタジーっていうやつ。
ほんわかする懐かしの青春みたいなやつ。
そういう明るい映画だと記憶してた。
ぽかぽかする~みたいな。
それが今回見直したら全然そんな甘いもんじゃなかった。
前半はまあ、そんな感じだったんだけど、
中盤から後半、もうね、苦しくて苦しくて見てるのがつらすぎだ。
なぜこんなにも辛いものを見せられるのかって
ずっと胸が苦しいまま。
暗い。
暗すぎる。
いや、前半もたいがいきついこと起きてますね。
いきなり変質者に襲われて石田ひかり殺されかけてるし。
うん?この映画甘ったるいファンタジーとはちょっと違うぞ
っていう雰囲気ある。
高校生だったときの自分も見てて辛かったのかな?
辛かったから、その辛さを記憶の底に押し込めて
当たり障りのない青春ファンタジーとして記憶したのかな?
それとも死の香りや崩壊していく家庭の暗さを
感じ取っていなかったのかな?
なんか不思議だったなあ。
子供の頃に見た映画を大人になって見返すと
こういうことが起きるから不思議ですね、映画って。
もうね、ほんと死の香りが充満してるんすよ。
全体が死に覆われている。
まあ、みんな大好きだった姉が突然死んでしまった家族の話だから、
最初から死の存在は中心にあるんだけどさ。
妹の石田ひかりの目の前で
姉の中嶋朋子がトラックに押しつぶされて死ぬ。
そのショックで母親の富司純子はちょっと精神がおかしい。
お父さん岸部一徳は出張が多くて家を空けがち。
いつもできるお姉ちゃんにくらべられて
できない妹として姉に世話を焼かれていた石田ひかり。
優等生でみんなのアイドル的存在だった姉の突然の死によって
バランスが崩れて崩壊しそうな家族の話。
でもさ、前半は幽霊の中嶋朋子の助けっていうか存在によって
石田ひかりがふんばってどうにか形を保ってるんですよ。
幽霊っていっても、石田ひかりが
心のなかで作り出してる幻影っていうか、
石田ひかりの想像の産物なんすけどね。
中嶋朋子が石田ひかりを励ます感じで
なんとか家族の平穏をギリギリ保ってる。
それが中盤から後半はもうねガラガラと崩れていくわけです。
石田ひかりの家庭だけじゃなくて、
同級生たちにも死の影が色濃く漂う。
中江有里は心中騒ぎを起こすし、親友は父親ベンガルを亡くす。
この死が唐突であっさりと描かれるのが
ものすごいインパクトなんすよ。
石田ひかりたちが若者で生命力にあふれているだけに、
突然の死や崩壊の前兆にものすごいインパクを感じてしまう。
だから見ててどんどん辛くなってくるんすよ。
後半なんかもうホラーだぜ。
みんないなくなっちゃうねっていう石田ひかりが
見てて辛くて見ていられない。
演劇部で劇の主役に抜擢されるけど
母親の富司純子がたちの悪いいたずら電話で
具合悪くなっちゃって入院することになって主役を降りちゃう。
母親にいたずら電話かけてたのが
島崎和歌子だったっていうのがあったりしてさ、
石田ひかりの精神は崩壊寸前。
父親の岸部一徳が単身赴任で北海道行って
そこで女ができて修羅場になるんだけどさ。
もうやばいんだよ。
母より愛人を気遣う父が許せずペーパーナイフを振りかざすとこまでいくけども、
泣く父にはっとして思いとどまる。
なぜこんなに辛いことを見せるのかと。
姉の幽霊とのちょっといい感じのファンタジーを見ようかなぐらいに、
軽く構えて見始めてるのに
死の香りと崩壊していく家族、
増していく辛さを見せられなければいけないのかと。
エンディングに向かって加速していく死と崩壊。
辛すぎる。
見ていて胸がしめつけられて痛くなってくる。
人の死を受け入れるということは、ここまで辛いことなのかと。
いい感じのファンタジーと見せかけて、
死を受け入れる辛さを真正面から描いたハードドラマだった。
赤川次郎原作だからって
ちょっと油断してましたね。
赤川次郎って、ティーン向けの当たり障りのない小説を書くっていう
イメージあるけど、案外そうじゃないのかもなあ。
今また赤川次郎を読んでみても面白いかもって思ったり。
終わってみれば、
石田ひかりが中嶋朋子の死を受け入れて少し大人になるまでのお話でした。
別にエンディングを迎えても
家庭が円満になったわけでも、
寂しさが癒やされたわけでもないから
大きな希望を感じる終わり方ではなかったので
気持ちは沈んだままなんすけどね。
やっぱあれなんすかね、自分が大人になって
何人もの身近な人間の死に立ち会って
それを受け入れなきゃいけない体験をしたから
見てて辛くて辛くてたまらないって感じたのかな。
高校生ぐらいのときの自分には
この映画で描かれる死をそんなに辛いとは感じていなかったのかもしれない。
描かれている死や家族の崩壊に現実味をかんじなくて、
合成が変でおもしろい映画だなぐらいに思ってたのかもなあ。
マラソン大会の合成にくすっとなってたりしたのかも。
第九のイベントシーンの花火のフラッシュすごすぎとか思ってたのかも。
石田ひかりの圧倒的なフレッシュさ。
中嶋朋子のこの世の人ならずを体現した存在感。
シューマンのノヴェレッテを弾くピアノ発表会の躍動感あるカメラ。
親友役の柴山智加ら脇の少女たちにもドラマがある。
ほんとすごい好きなシーンがいっぱいで
好きな映画なんだけど、辛くて辛くて見るのが辛いので
しばらくは見返したくない映画ですね。
始まって終わりに向かって
死と崩壊に埋め尽くされていく感覚に耐えられない。
まあ、大林宣彦映画はすごいパワーありますよ。
変な癖が強いから、大林映画は苦手っていう人も多いのもわかる。
この映画もエンディング曲がなぜか大林宣彦監督と音楽担当の久石譲の
デュエットになってんの。
エンディングロールが始まったらおじさんの歌声が聞こえてきて、
え?なぜゆえにおっさん二人の歌声なのかみたいな。
石田ひかりと中嶋朋子のデュエットじゃないのかみたいな。
映像表現も独特な合成の使い方で癖がすごいしね。
でもはまるとものすごくはまっちゃう魅力があります。
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