戦時下の殺人事件の話で出だしはすごく面白そうなのです。第二次世界大戦下のワルシャワ。アパートで娼婦が切り刻まれて殺される。娼婦はドイツ軍の情報提供者であったためドイツ軍人が調査に乗り出します。
壊れたドアの隙間から部屋から降りてくる犯人らしきを見た目撃者によると将軍の軍服を着ていたという。ドイツ軍の将軍という地位の高いもののなかにこの猟奇殺人の犯人がいる。犯行時間の晩にアリバイのない将軍が3人いて、そのひとりがピーター・オトゥール。
見るからにやばいやつであやしいです。またさピーター・オトゥールの演技が怖いんだ。無表情でマネキン人形みたい。潔癖症で神経質。平然と建物を焼き討ちしたりもする残虐性の持ち主。
まあ、こいつしか犯人ないなって感じ。出だしは上々。しかし中盤、後半となんだか間延び感がすごいです。というのも殺人事件のことと別にヒトラー暗殺計画の話も描かれる。ワルキューレ作戦。
なんか聞いたことあるなと思ったらトム・クルーズ主演で映画になってましたね。将軍たちがヒトラー暗殺を試みて失敗したあれ。
バルキリー作戦を描く。ピーター・オトゥールの世話役を命じられる若い兵隊のことを描く。殺人事件を捜査する軍人のことを描く。ピーター・オトゥールの情緒不安定な感じを描くって感じで、どこに、誰に焦点があってるのかよくわからない。
誰にもどこにも焦点あってないような気がしたな。主役っていうかさ、主観を誰かに固定して描いてほしかったね。ピーター・オトゥールを主役にして女を切り刻まずにおられない衝動にかられる変態殺人鬼の話にするか。
捜査するやつを主役にして探偵ものにするか。若い兵隊を主役にして上官がやばいやつで大変なことに巻き込まれるサスペンスものにするか。どれかにしてほかったなあ。
誰も主役じゃなくて群像劇って言う感じの描き方なのです。戦争という大虐殺をやってるときに、娼婦が一人や二人殺されたところでなんてことないよみたいな空気があるなか、捜査官は執念深くピーター・オトゥールを追い回す。
ついにあなたが犯人ですねと問い詰めるんだけど、ピーター・オトゥールがあっさりと撃ち殺す。そして部下たちが処理。将軍は絶対。戦争下での軍隊組織における将軍というのは絶対の神に近い。
ピーター・オトゥールはそんな感じで捜査官を始末。新しい殺人をおかしてその罪を世話役の若い軍人におしつける。バルキリー作戦は失敗に終わり、ピーター・オトゥールはバルキリーが成功してたら粛清されていたのに、逆に首謀者たちを狩る側になる。悪人はどこまでも運が強い。
そして戦争終わってまた事件です。ピーター・オトゥールの娼婦殺しは病気みたいなものなので治りません。まーた、悪人が運を味方に切り抜けちゃうのかと思いきや、行方知れずになってた若い軍人が登場。裁判で証言するということでピーター・オトゥール一巻の終わり。
またもうだめだとなったら潔く自害するっていうのがなんか軍人ぽかったですね。変態で残忍な殺人者だけど、潔癖で妙な潔さがある。よくわかんない誇り高き精神の持ち主。ピーター・オトゥールが腹をすかしている浮浪児に昼飯のサンドイッチをめぐんでやるやり方もなんか気高い軍人っぽいと思った。
ほらめぐんでやるよって子供にわたすんじゃなくて、部下が汚い手でもってきたサンドイッチなんぞ食えるかとはたき落として、子供たちがそれを拾えるようにしてやるとかさ。これはめぐんでやってるんじゃくて偶然落ちただけっていう体裁で、子供たちに惨めな気持ちをもたせない気遣い。そんな感じしたけどね。
そんな軍人として誇り高いピーター・オトゥールがサイコ殺人者だっていうのが、この映画のみどころかな。セットや衣装はよくできてるから映像の質感はよかったですね。