劇場未公開でディズニープラスだけで公開の映画なのかな?軽いコメディかと思って見始めたんだけど、すごく怖い映画で期待をいい意味で裏切られた。いやー、怖いんすよ。いろいろと。
まず主人公のお気楽さが怖い。ゾーイ・ドゥイッチは裕福な家庭で育って今はWEBニュースサイトかなんかの会社でフォトエディターとして働いてます。いつかはライターとして自分の記事を書いて掲載されたいと思ってる。
なんだろ。空っぽなんすよ、彼女は。自分というものがない。ポリシーっていうかな。生きてきた体験の中で形作られた自分なりの考え、自分独自の言葉をもたない人なんすよ。両親は金持ちでさ、彼女はとくに不自由なく育って、なんとなくそのまま社会に出たって感じなんすよ。
彼女には友達もいないし、職場の同僚からも相手にされてない。そんな空っぽな彼女なんすけど、インフルエンサーの男の気を引きたいために、SNSでフランスに行ってライタープログラムを受けているという捏造ツイートを投稿しまくる。
フォトエディターなので写真の加工は得意。背景をフランスの画像に適当に合成して、フランスでのイケてるワタシ投稿を続ける。そしたらさ、フランスで爆破テロが発生して、彼女もフランスでテロに巻き込まれたとみんな心配するわけ。
いやー、ほんとはフランス行ってないんすよ~って言えなくてテロを体験して帰ってきたというフリをしちゃうわけ。
もうこの彼女の軽さというか、無垢さというか、だいそれたことをだいそれたことと思わず軽いノリでやってしまうところが怖い。
みんなちやほやしてくれるし、注目を浴びて有名人気分を味わえることに興奮して嘘に嘘を重ねる。テロのことをどうだったって聞かれたときに答えられなくて困るから、情報を仕入れるためにひどい事件や事故を体験した人たちの集まりに参加することにします。そこで銃乱射事件を体験した女の子ミア・アイザックと友達になって仲良くなっていくわけ。
ミア・アイザックは銃規制の運動をやっててちょっとしたSNS有名人で集会の演説で力強く語る彼女をゾーイ・ドゥイッチは参考にして記事を書く。自分の体験した経験談としてね。私は大丈夫じゃないと声をあげようというハッシュタグがバズってゾーイは一躍ネットで有名になる。
それも見てて怖かったなあ。どんどん親密になっていって、なんでも話せる友達みたいになっていくんだけど、主人公は嘘をついてるから、それがいつバレるのかってヒヤヒヤで怖い。いい関係がいずれ壊れてしまうのが見えてるから、二人が仲良くなっていくのが怖い。
ゾーイ・ドゥイッチは全然悪いことしてるつもりがないのが怖いんすよ。ミアの言葉をぱくってることになんの悪気もない。大学生がネット記事を丸写ししてレポート書いてるような感覚。やってることの重大さに気づいてないのか、インフルエンサーになった刺激に夢中になって気づかないふりをしているのか。
で、最後は結局嘘がバレる。すべてを失うゾーイ。当然、友情もなくしてしまう。ことの重大さに気がつく。今?遅いよ!って感じですけどね。でさ、最後に謝りに行くんだけど、会わずに帰るんすよ。ゾーイへの怒りの詩をポエトリーリーディングするミアの姿を見てゾーイは自分は自分の言葉で謝罪する準備ができてないと思ってその場を去る。それで映画は終わる。
感動の希望のエンディングというわけにはいかなかったです。怖い話だね。主人公は自分で自分を表す言葉をもっていない。そのことに気がつくという話なんすよ。SNSでインフルエンサーになればハッピーぐらいしか思いつかない、主義主張やポリシーを持たない世代が今の若者っていうわけですかねえ。