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『プロミシング・ヤング・ウーマン(原題:Promising Young Woman)』【映画のあらすじとネタバレ感想】


復讐劇+罪の物語。組み合わせ映画。その組み合わせがうまくできてるっていうポイントが評価されたからなのか、アカデミー賞脚本賞を受賞してるみたいです。けっこうどっきりする内容ですよ。

映画や漫画や小説やテレビドラマでさんざん描かれるあれって犯罪だぞって突きつけてくる。目が覚めたら知らない家でベッドの横に知らない人が寝てて、そうだ、昨日飲みすぎて泥酔して記憶がない。わたしあなたとやったのやってないの?みたいなシチュエーションってよく出てきますよね。

ラブコメの定番展開でほんとよく見かける展開だ。でも冷静に考えると、記憶がなくなるぐらい泥酔して意識がはっきりしてない女を家に持ち帰りして、そのままことに及ぶってそれはレイプなのでは?みたいな。

え?泥酔して無防備になってるんだからどうされようが承諾済みだろ?そんなに飲むってことはOKってことだろ?って思ってる人が男でも女でも多いんじゃないか。それが普通の感覚みたいになってるけど、はたしてそうですか?っていう問いかけ。

主役はキャリー・マリガンなんすけど、なんかすごく年寄りに見えたのが気になったなあ。設定では30歳なんだけど、どうも45歳ぐらいに見えてすごい違和感が最初から最後までありました。ミスキャストなんじゃないか。やさぐれているという設定なのはわかるんだけど、それ以上に老けすぎて見えたなあ。

将来を嘱望されていた医学生だった主人公だが、今では子供部屋おばさんでコーヒーショップで働いて無気力な毎日を過ごしている。両親はもうけっこう年いってて、はやくあなたも自立して自分の家庭をもって人生を楽しみなさいよって思ってる。でもキャリー・マリガンは人生に絶望していて何もやる気ない感じなんです。

そんな彼女なんすけど、やる気満々で情熱もってやってることがあるんすよ。夜な夜なバーに一人で行って泥酔しているふりをする。そこによってきて持ち帰りして寝ようとする男たちについていって部屋で酔ったふりをやめて男たちに説教してへこませる。

それを何回もやっててノートにびっしり回数カウントの棒線がならんでます。相当長い間そんなことをやってる。そんなことをやってるのはなぜか、彼女の過去になにがあったのかというのが映画がすすむごとに明らかになっていきます。

冒頭に男をへこませてキャリー・マリガンが朝帰りしてるシーンがあります。ぱっと見るとシャツに血がついていて、え?男を殺したのか?って思わせておいてからの、血に見えたのは食べてるホットドッグのケチャップでーすっていうね。

彼女のなかではこの行為が男たちを殺すに等しい激しい行為であるというのを比喩で見せてる。そこまでしなきゃいけないほどの何が彼女にあるんだって、興味をひく演出になってましたね。

アクション映画でよく見る過去の復讐を主人公がやっていくっていう話なんだけど、この映画の特徴はそこに女性が男性社会でどう扱われているのかということを盛り込んでいるところです。

泥酔している女を持ち帰りして、相手の意識が朦朧としているところを襲うのが男からしたらそんなになるまで飲んでるってことは同意ってことだろって勝手にみなされる。女からも泥酔してそんなとこにいたのが悪いと男側の肩を持つようなこと言われる。

女が朝帰りしていると、工事現場のおっさんから、姉ちゃん昨日は楽しんだんだな、おれたちもビンビンなんだ、楽しませてくれよみたいな卑猥な言葉をかけられる。それでさキャリー・マリガンが真顔でじっとそいつらを見ると、おっさんたちはなんだノリ悪いな、変な女がいるぞみたいになって逃げていく。

おっさんたちに悪意はまったくない。軽い冗談ですやん、ノリ悪い女やな、何おこってんの?って感じなんすよ、おっさん側は。見ず知らずの女性に卑猥なジョークを浴びせることになんにも頓着してないんすよ。その無自覚さ。

屈強な男が朝帰りしてても、工事現場のおっちゃんたちは、卑猥なジョークでからかったりするのかというとしないわけです。

道路に車を止めてると、わざわざ止まって邪魔だと罵倒してくる男がいる。運転手が女ひとりだからからんでくる男。あれ、もし車停めてる運転手が男で何人もいたら、あの罵倒男はわざわざからんできて罵倒してくるのかというとしてこないだろう。

相手が女で、ひとりでいたり、酒に酔って意識朦朧になっていたりすると、なにをしてもいいんだと乱暴で凶暴になる男がいる。その場のノリ、若気のいたり、子供だから仕方ない、それで犯罪的な行為が是認される世間のムードもある。

この映画に出てくる男は、普段みな柔和で優しくてジェントルマンな普通の男たちなんすよ。根っからの荒くれ者とか異常者とか暴力ふるうのが大好きとかそういう男たちではない普通といわれるような男たち。

そういう普通の男が、相手が女で、一人でいて、酔っ払って何もできないと、何してもいいとなんの疑問もなく思ってるという異常さが描かれてる。なんかゾッとしますね。夜道歩いてて強盗にあったら、そんなの夜道を歩いてるからだろって被害者のほうを責めてしまう気持ちって自分にもあるからなあ。

キャリー・マリガンは親友が犠牲になってそこから立ち直れないでいて復讐にしがみついてるわけです。救われないのが、彼女自身も自分は罪がある側だと自覚してることですね。親友が犠牲になってなかったら、ウェーイなノリで女を襲って平気な男たちのお仲間側にいたのは間違いない。

敵の男みたいなやつと結婚して妻になってた可能性が高い。そういう片鱗が描かれてる。キャリー・マリガンにアプローチしてきていい感じになる医大時代の同級生で小児科医の男がいるんですけど、こいつの言動が彼女が忌み嫌ってるやつらそのものなんですよ。

出会いからして、なれなれしくアプローチしてくる男がうざくて、キャリー・マリガンがコーヒーにつばをぺってはいて出すんだけど、男はそれを飲んで見せる。その場のノリや悪ノリやギャグがわかる愉快なやつですよっていうアピールする男。

いや、こういう男って普通に頭おかしいやばいやつでしょ。その場のノリでおかしなことできちゃう人だから。こういう人は、ノリで酔った女襲ったり、若気のいたりで犯罪じみたことできたり、ノリで見てみないふりしたり、そういうことができちゃう性格の男ってことじゃん。

後半にもコンビニで他人の目を気にせずブリトニー・スピアーズの音楽にあわせて、はしゃぎまくる男と一緒にはしゃぎまくるキャリー・マリガンっていうシーンがある。その場のノリでなんでもできちゃう人たち。ある意味普通といえば普通の人ですよね。

キャリー・マリガンはそういう男にひかれていいなって思っちゃってるわけ。キャリー・マリガンもそっち側なんすよ。それがさ、彼女のなかで矛盾してる。忌み嫌ってるはずのタイプなのに、楽しいおもしろい人って思っちゃってるし、自分もそっち側の人間でしかないという行き場のなさ。

キャリー・マリガンは正義の人でもないし、無罪の存在でもない。犠牲になったのが親友じゃなかったら、まあ、そういうこともあるね、酔ってそんなとこ行くのが悪いよねってキャリー・マリガンは思ってたと思う。

だから彼女は最後死んでもいい危ない計画を実行したんだろなあ。彼女に生きる道はない。男たちを釣って説教してへこましても、男側は変な女にあたったなって次にいくだけでなにもかわりはない。

親友の死のきっかけになった男に復讐したところで、なにも世界はかわらない。復讐なんて忘れて心機一転自分の人生をやり直そうと思っても、恋人は敵のお仲間だし、そんな男に魅力を感じた自分も最低だしで、どうしようもないわけです。

主人公は罪の意識から逃れられないし、罪人を罰してまわっても罪が消えるわけでもない。罪のない人しかいないユートピアは存在しない。この世は罪人しかいないわけで、だから彼女は最後死ぬしかないわけです。自覚してる罪は何をしても消えない。

だから、この映画では復讐ものの爽快感はまったくありません。ずーっと気持ちが晴れない。最後も彼女の計画どおりに結婚式をぶち壊し、敵を破滅させる。でも、やったね!とはまったく思えない。

男たちはまた腕のいい弁護士を雇って微罪で切り抜けちゃうかもしれないし、世の中が変わるわけでもないし、主人公はあぶないへんなやついたなで片付けられて忘れ去られていくだけかもしれない。

いやー、怖い映画だったっすね。内容がっていうより、自分も意識せずに罪深いことやってるだろうな、そしてそれをまったく覚えてもないだろうと思うと恐ろしくなってくる。


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