主人公は医者です。優秀な医者でいい病院でのいいポストにつくことも決まってる。そんなとき臨時で短期間引き受けた小さな町の診療所でおきた出来事によって、彼女の未来は大きくかわってしまう。
病院はオートロックで訪問者がブザー鳴らしてそれに応えて解錠するようになってるんだけど、ある日診療時間を大幅にすぎた夜の8時にブザーがなる。もう時間外だからと無視。そしたら次の日に刑事がやってきて監視カメラの映像をみせてくれとなる。そこにはなにかから逃げているらしき若い女性がブザーを押している姿があった。
若い女性は岸辺で死体となって発見されていた。自分がブザーを無視せずに応対していれば彼女は死なずにすんだのにと良心の呵責に悩む主人公。死んだ若い女は身元不明で名前もわからない。彼女の名前と素性をなんとかして知りたいと手がかりを探して自己捜査していくってわけです。
いやー、でも彼女は医者としてはかなり優秀で、患者に接する姿は医者以上で便利屋かよっていうぐらいあれこれ患者に親身になってやる人なんすよ。ブザーが鳴ったときたまたま研修医にダメ出ししてるときで、研修医がブザーに応答しようとしてたから、立場が上だというのを見せるためにブザーを無視したっていう間の悪さがあるのです。彼女ひとりでいたら時間外でも応答していただろう。
そういう善人というかさ、きっちりしてる人だから、自分のやったことが許せないというか、居心地が悪いというかね。寝覚めが悪いというか、気になって仕方なくて、新しい病院の仕事を断って、小さな町の診療所をそのまま引き継ぐことにしてしまう。
これはもう気持ちの問題なんすよねえ。そんなの自分には関係ないことだと、ばっさり切り捨てて気にせず生きることができない人。だからしつこく死んだ女性のことを知ろうとする。引きつけをおこした患者を前に硬直してなにもできなくなってしまった研修医は、主人公に怒られて医者の才能ないからと田舎に帰ってしまうんすけど、それも説得してなんとかまた戻ってくるように辛抱強く関係を築こうとする。
タフなんだよなあ。とにかく主人公がタフ。その点もこの映画がハードボイルドであると思うところですね。粘り強い。辛抱強い。診療所は小さな町の裕福でない人たち相手なので、貧乏な老人だったり、フランス語が喋れない移民だったり、ニセの診断書をかけというチンピラだったり、やっかいなやつらばかり。でも彼女は焦らない。
目の前の困難にたいして全然動じない。たんたんとできることをやり続ける。こんな強いひといるの?みたいな。
それにくらべて彼女が出会う人々は感情むき出しでどなったり暴力にうったえようとしたりする。それがね、また彼らの人間味ある姿が際立つというかね。主人公がタフであればあるほど、周囲の人間の人間っぽさが際立つ。
まあ、それで危険な目に何度もあいながら、死体の名前や素性がわかり、あのブザーの夜になにがあったのかも判明する。
そしてまた彼女はいつものように患者たちを診るという毎日に戻っていく。これは別に犯人探しとか、事件の真相を暴くミステリーとかじゃないんすよね。主人公の生き方を見せるハードボイルド映画なんだなあ。
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