恋人が高齢でそれまで結婚していた妻と別れ家庭を捨ててマリーナと一緒に暮らしていたことと、マリーナがトランスジェンダーであることで、静かに死を悼むって感じにはならない。
マリーナは刑事にはアブノーマルセックスのはての死亡事件ではないかと疑われ、恋人の元妻や息子には恋人を狂わせた怪物だと忌み嫌われる。
一緒に住んでいた彼の部屋はすぐにでろと言われるし、車も返さなきゃいけないし、彼の息子は横柄で危害を与えてくるし犬を勝手にさらったりもします。
なんだろ。彼さえいれば幸せで、彼との生活になにも障害はなかったわけです。年の差があろうが、マリーナがトランスジェンダーであろうが、二人でいればすべてOKだった。それが彼が亡くなってしまうことで、マリーナは何もかも失ってしまう。
まさに彼との愛がすべての状態だったわけです。彼女どうすんのかな?っていうのがミステリーっぽい感じで面白かった。謎のロッカーの鍵とかも出てくるしミステリーとして先が気になって興味をぐいぐい引っ張っていく。
まあ、ミステリとかサスペンスとかじゃないから、特別最後になにか驚愕の真相がみたいなのはないです。地味な死を受け入れるドラマっていう感じです。謎の鍵はサウナのロッカーの鍵っていうのがわかって、マリーナはサウナに行って男性のふりして男性ロッカーに忍んでいって、ロッカーを開けてみる。
何があるのか。彼が残したものはなにか。ゴクリっって感じで緊張の一瞬ですが、ロッカーは空でなにも入っていないのです。
空のロッカーというのは、もう彼は死んでしまっていないということの象徴ですね。彼の部屋、彼の残したもの、そんな残り香に包まれて彼の突然の死をまだ実感できていないマリーナですけど、空のロッカーを見て彼の死を現実と受け入れる段階に進むことができる。
そんで最後は彼の幻影にいざなわれ、火葬する前の遺体と対面し送り出す。ちゃんとお別れの儀式ができたってわけ。主人公がトランスジェンダーであるということで、特殊な映画のように見えるけど、中身はいたってオーソドックスな物語でした。
パートナーの突然の死。幸せが突然消えたらどうなるのか。どう受け入れるのか。そういう話ですね。
トランスジェンダーの主人公は恋人の元妻や息子からひどい扱いをうけるから、ひどいとは思うけど実際ああいうことになったらそうなるでしょうね。元妻は自分のもとから去った夫が許せないし、相手がトランスジェンダー。女性でも男性でもない得体のしれないキメラみたいな存在だと主人公のことを言ってました。
元妻や息子は、自分の身におきたことの気持ちの整理がまったくついていない。まあ、そんなことを、ああそうねって軽く受け入れられる人はそうはいないでしょうね。
大きな出来事、価値観をぶち壊すようなビッグイベントに遭遇したとき、だいたいはそれを受け入れようとはせず、なんとかなかったことのようにふるまってお茶を濁そうとする。まあ、ほんとはさ、おきたことは仕方ないと受け入れるのがいいんだけどね。
死んだ恋人の弟は事実を受け入れて冷静に考えることができる人みたいだった。兄貴が家庭を捨てたのも、トランスジェンダーの人を新しいパートナーにしたのも、それはそういうことなんだろと受け入れていた。
そうなんだよなあ。今そうであることを違うと否定したり、隠そうとしたりしても、なにも変わらないですよねえ。
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