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戦中派ベテラン俳優小林桂樹が映画人生を語る『役者六十年/小林桂樹 聞き手 中山敬三』【読書】



役者六十年/小林桂樹


小林桂樹といえば、伊丹十三監督の「マルサの女」でマルサの部長役で

初めて意識したかなあ。

電話かけるシーンの軽妙さにおもしろい俳優だなあって思ったのを

覚えている。

テレビドラマで印象的な脇役をいろいろとやってたり、

自分が物心ついたときは

小林桂樹はもうかなり高齢で

主演の人っていうイメージはなかったです。

そこからさかのぼって黒澤明とか小津安二郎とか岡本喜八とかの

監督作品を見るようになり、

小林桂樹が若くて主役やってるのを見て

あの名脇役が主役やってて若い!とか変な驚きをもって

小林桂樹を見直してました。

ものすごい古い映画見ると小林桂樹が出てたりして

え?こんな昔から映画出てるのかって驚いたりします。

戦中派っていうやつなんですよね。

戦争に行って体験してる世代。

役者として政府に登録して

戦意高揚の映画に出演したりしてたところから始まって、

映画が娯楽の王様だった熱狂の時代を体験し、

斜陽していく映画界からテレビの隆盛がありっていうね。

もう、邦画の歴史そのものみたいな俳優なんだなあ。

小林桂樹さん自身が出演作品をとおして

数々の映画人とのエピソードをまじえて語る

自伝って感じでおもしろく読めました。

戦地で実弾使って映画撮ったりしてんだもんなあ。

おもしろエピソードがいっぱいです。

裸の大将とかテレビで赤ひげやったりしてるんだ。

どっちも見たことないから見てみたいっすね。

あと椿三十郎で押入れに押し込められる侍の役。

あれも小林桂樹だったか。

あそこにもここにもって感じで邦画黄金時代の作品には

けっこうたくさん出演してるみたいですね。

森繁久彌の社長シリーズにも出てる。

社長シリーズとかこのへんの時代のヒットシリーズ作品って

全然見る機会がないまま育ってるので

森繁久彌がコメディアン俳優だったというのを知って驚いたのと同じで

小林桂樹が二枚目路線で最初やってたというのも驚きです。

全部の出演作を見てるわけじゃないけど、

小林桂樹のベストは今のところ「江分利満氏の優雅な生活」ですかね。

岡本喜八監督の映画。

なんか背伸びしすぎず、リラックスしすぎずのいいバランスで

演技しててよかった。

小林桂樹はめしを食うシーンをやらせるとうまいという評判だったという話ですが、

この映画でも泣きながらお茶漬けをかっこむシーンがあって

確かにうまかったです。

人に歴史ありですねえ。

ベテランの映画俳優の人生を振り返ると、

そのまま映画界や時代の振り返りになってるのがおもしろいです。

時代ごとに作られるタイプの映画が変化していく。

映画の中で描かれる人々の生活や風俗が変化していく。

小林さんが映画が斜陽になっていったのは、

テレビのせいというよりも、

人々の生活が豊かになっていったからだと思うって言ってるのがなるほどなと。

映画が派手なスポーツカーを乗り回したり、

海外旅行に行ったりと、庶民では絶対に手が届かない夢の世界を描いていた時代から、

庶民の生活が高度成長期で豊かになって

スポーツカーも海外旅行も手が届くところにきたから

映画にそれほと夢や輝きを感じなくなったから没落していったということかな。

映画が未来を描いていたけど、現実がその夢に追いついていったということでしょうか。

物にあふれる豊かな生活という未来のその次の魅力的な未来を

映画が提示できなかったから映画が没落したということなんだろうか。


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