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サントリー宣伝部に務める36歳サラリーマンの話。
小林桂樹が演じてます。
おもしろくない、なんだか面白くないが口癖の
これといって特技も特徴もない平凡な男の話なんすけど、
これがなんか大河ドラマみたいな壮大なスケールを感じる
人生の振り返りドラマになってて面白かった。
何軒もはしご酒して深夜に帰宅するぐらいしか趣味のない
平凡なサラリーマンがひょんなことから
婦人雑誌から執筆を依頼される。
何を書いていいのかわからない。
ならば平凡でどこにでもいるようなサラリーマン男が
懸命に生きてる日々を綴ろうと、
自分のことを書く。
everymanの日記ともエッセイとも小説ともつかない雑文。
それが評判になって直木賞候補になる。
そして直木賞を受賞。
しかし、それもいっときの打ち上げ花火、
平凡で退屈なおもしろくない江分利満の生活は変わらないという話。
時代設定が戦争が終わって高度成長期が始まるぐらいなんすかね。
小林桂樹の父親の東野英治郎の世代が戦争のときに、
戦争特需でどさくさにまぎれて好き勝手やった。
会社作って潰して、また会社作って潰してと、
贅沢も貧乏も好き勝手やってきたのが東野英治郎。
東野英治郎がひでえやつなんだ。
その親の好き勝手に振り回されて育ってきたのが小林桂樹の世代。
戦争は終わって平和になってこれから上向いていこうかという時代に突入。
日々の暮らしを何事もなくやり過ごすために、
しこしことサラリーマンやる。
小さな社宅暮らしで
父親の借金の後始末や、嫁や子供の将来を考えて働く。
それがなんだかおもしろくない。
上の世代は好き勝手やった。
その後始末を自分はやらされている。
中年になってもう未来の希望に胸膨らませるような年齢じゃない。
なんだか損したような不満だけがつのる毎日。
そういう生き方をしてる男の姿を
自分語りで見せていく。
映像的に遊びがいっぱいあっておもしろいです。
モノクロの古い映画なんだけど、映像演出がアニメみたいで見やすいですね。
岡本喜八監督作品ってアニメーターに人気あるみたいですけど、
のちのちのアニメ作家にものすごい影響与えてるなあっていうのを感じます。
江分利満がどんな下着を着ているのかを説明するシーンでは、
出勤する風景を下着姿でやって見せたり、
父親が戦争特需にのってあこぎなことやったのを
アニメーションで見せたり、
周囲の人間がストップして、主人公だけが動き回るとか、
そういうアニメや演劇っぽい映像がいいですね。
映像のテンポもいいんだな。
中年オヤジが主人公の酒の席での愚痴話みたいな内容なのに、
全然退屈しません。
内容にしてもこれってどの世代でも当てはまりますね。
上の世代は好き勝手やって、
その後始末を自分たちは押し付けられて、
これからよくなる恩恵は受け取れないと不満に思うのは
どの世代に生きても感じることだろうから。
親世代への不信感。
損な時代に生まれたという不公平感。
それはどの世代でも感じることなんじゃないすかね。
なんだかおもしろくないという
この感情、不安、不満はいつの世も消えないんでしょうね。
貧乏くじ引かされたと思い続ける人生だ。
好きなシーンは、母親が死んで遺言を残してるのがわかって、
その内容を聞きながら小林桂樹が飯をかっこみながら泣くシーンだなあ。
母親が死んだことが悲しいんじゃない、
夫には期待できないとあきらめた瞬間が母にはあって
そういう気持ちを死ぬまで持ち続けて死んでいったことが悲しいんだっていうね。
死んだことじゃなくて、母の気持ちを考えると泣けてくるっていうね。
いやー、いいですね、この映画。
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