この映画では仲代達矢、志穂美悦子、風間杜夫、竹田高利が競って怪演してます。まあ、役者を見る映画かな。話はちょっときついというかなんというか。
刑事と犯罪者がいて、犯行がある。だが一筋縄では解決しない。人殺しにはふさわしい理由が必要だ。あまりにもくだらない理由やたいした理由でないと、起訴もされずにほったらかされて、犯罪も犯人も認められない。そういう世界を描きます。
起訴も裁判もされずに収容されたままの囚人がいっぱいいる。大滝秀治なんかすごい年季入った囚人なんすよ。ハゲのくせにという言葉にかっとなって殺人を犯したんすけど、そんな理由は認められないということでずっと収容されたままです。
世間が納得するような立派な動機が必要なんだっていうね。実際にどうかは重要ではない。重要なのは世間体という皮肉な話。それをやってるんだけどさ、まあ、長く感じるよね。役者のパワーだけでもっていこうとしてるから、どうにも飽きがくるのは仕方ないです。
これが舞台ならいいんだろうけどなあ。映画は役者の演技でどうこうできる範囲はせまいから、熱演とか怪演だけでは間が持たない。
コント山口君と竹田君の竹田高利が犯人役ででてきていい演技してました。ブスを熱海で殺した事件の犯人で、仲代達矢たちが納得するような、殺人の理由を説明できるかどうかっていうね。志穂美悦子を相手役に犯行にいたるまでを再現ドラマとして演じていくシーンはこの映画のクライマックスですね。
なにがなんだかわからないが、迫力で泣かせる。謎の感動と充実感。立派な理由のある立派な犯行だと認められることに、なぜか感動してしまう。まあでもちょっと見てるのが退屈だったですかねえ。
仲代達矢の刑事演技はそんないいもんでもなかったかな。仲代達矢に思いをよせるがこたえてもらえずもだえ苦しむ志穂美悦子は、かなり面白かったけど。志穂美悦子はすごい敏腕刑事で無茶なことやらされるんだけど、すべては仲代達矢に認めてほしいからという女心のなせるわざ。
ビルからビルに飛び移ったり、犯人と格闘したり。なのに仲代達矢は冷静で冷たい態度。思いに応えてくれないのでしびれを切らして江藤潤と婚約してるんだけど、悶々とした仲代達矢への愛情は消えずに燃え盛る。やばい女の人って感じで面白かったですね。
風間杜夫は仲代達矢の腹違いの弟でしたっけ。田舎から赴任してきて仲代達矢の仕事ぶりを間近で見て、最初は反発していたけど、最後はその見事な仕事ぶりに感動して、率先して仲代達矢流の取り調べをノリノリでやってしまう。
風間杜夫がだんだんおかしくなっていくのが、見てておかしくて楽しい。いや、最初から風間杜夫はどこかおかしいんだけど、なんだろ、だんだん不満が積もっていって、突然弾けてさらにブチギレだしてそのままブチギレまくる演技をやる風間杜夫っておもしろいですね。
最初からおかしいけど、もっとおかしくなったみたいなおかしみがある。
よくも悪くも時代を感じる映画かな。コメディは、時代性が強くでますね。ブスやハゲやなんやらというのが笑いのもとになってた時代性っていうかな。今の時代、そういう見た目を笑う笑いはあまり流行らないし、見た目を笑ったらコメディじゃなくてシリアスな意味合いが出てしまうから、コメディとして成立しない。
女性を軽く見たり、軽く扱うのも、笑いじゃなくて、単なる蔑視だととらえられてしまって、コメディにならない。一途な女を笑うとか、ブスな女が真剣になにかするのをバカだなって笑うとか、そういうのが難しい。
コメディやお笑いって一番時代を超えないジャンルかもしれないですね。時代が変わるとまったく成立しなくなっちゃう。当時の社会状況や標準的な考え方だったりを考えないと、どういう意図なのかわからない。
時代と密接な関係にあるがゆえに時代の移り変わりによって意味合いが変化していくのは避けられない。それにやっぱ作られた年代って重要ですよねえ。作品と作られた時代をセットで考えないと面白みも半減しちゃう。
うーん、無様さや滑稽さの奥に本当の美しさや人間としての輝きがあるっていう話だと思うけど、描き方に古臭さは否めないですかね。仲代達矢や風間杜夫のファンで熱演が見たいっていう人にはおすすめ。
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