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『コーダ あいのうた(原題:CODA)』【映画のあらすじとネタバレ感想】


家族の話。耳が聞こえない家族のなかで自分だけ聞こえる主人公のお話です。一見、音楽映画かな、耳が聞こえないという部分にフォーカスした映画かなと思えるけど、それはただの設定で、描いているのは、共依存状態の家族が一歩前にすすんだというドラマです。

感動作というより、残酷なちょっと怖い作品だと思ったなあ。体裁はコメディとして描いているので表面的にはソフトに見えるけど、描かれていることや設定はかなりハードだった。普遍的なドラマなんすよねえ。

親と子の断絶。お互いに分かり合えない関係。親は子をいつまでも赤ん坊扱いしてずっとそばにいてくれると思っちゃう。子供も親の役にたてるのならと、ずっとそういう役割を演じてしまう。お互いがお互いに依存して一体化してしまうのが家族という集まり。

家族という集団の怖い部分がたくさん描かれてました。

親は耳が聞こえないので、主人公が歌が好きでけっこううまいということを知らない。これはどの家族でもあることですよね。子供が夢中になってること、好きなこと、上手なことが親にはまったく理解できずわからない。

一緒に暮らしているのに、親と子は別の世界で暮らしている。聴覚がない世界とある世界というふうにこの映画ではその断絶をわかりやすい形で見せている。

うわってなるシーンがいっぱいです。残酷だなあみたいな。歌をやりたいという主人公にお母さんが、まったく真剣に話をきこうともせず、反抗期なのね、わたしが盲目なら絵描きになりたいっていうんでしょって言っちゃうシーンとかさ。

うわー、恐い。子供のことがまったく見えてないし、そもそもわかろうとしてない。娘に卑猥なこと通訳させてなんとも思わないオヤジ。設定そのものも残酷です。主人公が小さいときから家族の通訳をやらせて、家業の漁業にも参加させている。

いや、娘にそんなことさせずに筆談するとか、船に一人耳が聞こえる漁師をのせるとかすればいいのに、それをしない父親と母親が怖い。

生活が苦しいとはいえ、娘が自らそれを望んだとしても、そんなことさせるのは親として失格すぎる。でも、セックスが好きなお盛んなおもしろお父さんとお母さんというコメディな見せ方をしているので、そのへんの残酷さを観客は意識せずに見過ごしそうになる。

巧妙なんすよねえ。ハードできつい要素は、笑える下ネタで隠されている。母親が娘が生まれたとき耳が聞こえないように願ったとかさ。兄貴が、おまえが生まれる前は3人でうまくいってたんだと言うかさ。残酷すぎるシーンがいっぱいです。

極めつけが発表会で歌ってる娘を親が客席で見てるところ。デュエットを歌い始めると無音になる。お母さんとお父さん、兄貴は娘の声を聴くことはできない。歌を聴くことはできない。ほかの観客の反応を見て想像するしかない。

親と子がまったく別の世界の住人だというのを象徴的に見せてるシーンで残酷だなあって思ったね。根本的にまったく違う世界に生きてるんだというのを娘の晴れの舞台のシーンで見せる。残酷すぎる。

それぐらい断絶してて理解しあうのは不可能に見える親子だけども、親と子という関係はどうしようもない。じゃあどうするのかっていうのが最後に描かれているのが希望があった。

わからないけど、認める。理解できないけど、相手の意思を尊重する。家族であってもそうあるべきだろう?っていう締めくくりになってる。そこが感動的でしたね。

いろいろあってわかりあってよかったね、じゃなくて、わからないけど認めることはできる。わかろうとすることはできる。家族に歌を届けたい、わかってほしいと手話をまじえて歌う主人公。それで歌がわかる、届くなんてことはないんだけど、わかってほしいというその気持ちは届く。

それが必要なんだ、大切なんだというね。そういうところに着地したのがよかったです。

いんきんでデリカシーがなくて社交的でもなく小さな自分の世界に閉じこもってるだけで取り柄がなさそうなお父さんだけど、娘が言ってることはわからないけど、認めなきゃいけないということはわかる。

だから、娘を後押しして送り出す。初めて父ちゃんえらいって思いました。

まあ、でもこの映画の主人公はそうとうタフだ。小さいときから、家族のために外の世界とわたりあってやりとりして、家の仕事もやって、学校にもいって、意中の男子を落とすために合唱部にはいって、先生に歌の才能を認められて、大学の試験にパスして、男もゲットして、スーパーガールか?

自分があんな環境だったら、夢をもつこと、自分の恋を成就させることなんて日々の消耗で考えることもできそうもない。主人公はほんとタフだなあ。なんでもできる。

毒のない感動作品のような作りで、しっかり親と子の断絶を描いている。そこが評価されてるのかな?アカデミー賞作品賞をとりましたよね。ただの感動ドラマだと受賞はしてないと思う。

シリアスでハードなことを、コメディタッチで描いて、当たり障りのないドラマのようにも見える。その技巧的なうまさがありますね。

主人公の女の子が恋して夢を描いて家族のもとから巣立つ青春ストーリーとして楽しむこともできるもんね。

まあでも、邦題の副題で「あいのうた」ってついてるけど、そんな生易しい話じゃないだろって違和感がすごいある。虐待の話といってもいいぐらいシリアスな話で、愛とか眠たい話じゃないからね。

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