ボブと名付けたその猫を肩にのせてストリートで歌ったときからツキが上向きはじめ、若者は薬物依存から立ち直るきっかけをつかんでいくみたいな感じです。映画の中に出てきてる猫は、本当のそのボブっていう猫らしいです。
本人ならぬ本猫が映画で自分役を演じてる。なんかすごく落ち着いてて、演技うまいなあ、いい猫タレントを探してきたんだななんて思いながら見てたから、本猫だと知って驚きました。野良猫だったらしいんだけど、すごい人馴れしてますね。
そんなボブの名演技を見ることもできるんですが、ネコ映画ではないです。描かれるのは、ホームレスの若者の苦悩の日々がほとんどです。いや、もうきっついなあって辛くなる。両親の離婚、父親から捨てられたという喪失感からハードドラッグにはまってホームレス。
路上でギター弾き語りで小銭を稼ぎ、ゴミ箱をあさって食べられるものを探し、路上で眠る。つらいなあって。薬物依存からの更生を支援する役所の人かなんかが、親身に協力してくれてメタドンを服用するという更生プログラムを続けることで部屋を提供してもらえることに。
これもなんかすごいですね。ヘロインとかのドラッグ中毒患者を治すために、別の薬を服用するやり方をするんだ。メタドン、メサドンもけっこうきつい薬で依存性もあるオピオイドらしいんすけど、ヘロイン断ちするメサドン維持療法ってのがあるんですねえ。
いきなりやめると禁断症状がきつくて耐えられなくてまたやっちゃうから、似た別の薬に移行してやめるっていうことなんすかねえ。毒を抜くために別の毒を飲むみたいな。
そんでその部屋にやってきたのが野良猫のボブ。飼い猫が迷い込んできたのかと飼い主をさがしたりするんだけど、見つからない。どうもこれは野良だぞっていうときに、ボブが怪我して帰ってくる。ご近所さんのアドバイスで福祉動物病院につれていったりして、ボブに情がうつって飼うことに……。
いやもう大変なのよ。カツカツ。路上で歌ってたら揉め事で騒ぎになって、路上演奏が禁止されてしまう。ビッグイシューを売ってたら、縄張りを荒らしたと言われてペナルティくらって1ヶ月活動できなくなる。
蓄えなどなく、稼ぎの種もなくして、だんだん食費もつきてきてって厳しいなあ。けっこうこういうつらい面をしっかりと描きます。もっとファンタジー的にふんわりした話にもできたと思うんだけど、そういう楽しい話には描いてなかったです。
ネコはきっかけにすぎない。ボブがやってきていつもそばにいてくれたことで、孤立無援の主人公がくじけずに立ち直る方向へ進むことができた。ネコがお金もってきてくれたり、お金持ちを紹介してくれたりするわけじゃない。
頑張ったのは主人公。でも、それができたのはボブのおかげ。不思議なネコだなあ。いやあネコって人気ありますね。路上で主人公が一人で弾き語りしても、誰も聞いてなかったのに、ボブを肩にのせて歌ったら、人がよってきて投げ銭も次々ともらえる。ネコ好きの人はなぜこんなにネコにひかれてしまうのか。
招き猫ってあるじゃないすか。あれですね、ボブは。いるだけで福を招いてしまう。猫にはそういう魔力があるんだろう。
いやー、真面目な映画なので、おもしろおかしい感じの映画を期待した人にはきついかもしれません。人はなにか心の拠り所になるものが必要なんだよなあっていうね。それがドラッグになっちゃう人もいれば、猫の人もいれば、家族である人もいれば様々っていうね。