駅前でビラ配りして団員を募集する友里千賀子、森下愛子、熊谷真美、岡本茉利らだが反応はいまいちで団員はさっぱり集まらない。そこにナンパ目的で武田鉄矢が声をかける。
第九も合唱もまったく興味ないけど、女の子との出会いの場にはなりそうってことで、先輩の伊藤達広、後輩の永島敏行らと参加してみることに。
それでいろいろあるっていうわけです。川崎で働く若者たち。集団就職で田舎からやってきて、みんなその日を懸命に生きるので精一杯みたいな。
武田鉄矢は鉄工所につとめる工員で、夜勤があって忙しく働いてます。クタクタで合唱なんかする気になれるかよって、乗り気じゃないし、何度か合唱団をやめて戻るを繰り返す。
合唱指導の田村高廣はスパルタ。V字腹筋で発声練習させるんだけど、伊藤達広は虚弱体質で声がでないし、腹筋もできない。それをどうした、こんなんじゃダメだと執拗にせめたてる田村高廣。
それに武田鉄矢が怒るわけ。先輩はこの前も倒れて体が弱いし、夜勤もあって大変なんだ、それをなんだよ、せめたててって。合唱だか芸術だか知らないけど、おまえ夜勤したことないだろ、俺達のことわからないだろって田村高廣にくってかかって出ていく。
先輩は病弱で体こわして入院。インテリで武田鉄矢に人生のアドバイスをするいい先輩です。死んじゃうんだけどね。
それでいろいろあったけど、第九の公演は成功。あのときあの場所で合唱した人間たちの心の中になにかを残して、また彼らは日常へと戻っていくのだったみたいな終わり方です。
合唱のシーンがけっこう長いんだ。あの合唱のシーンに、それまでいろいろあった回想シーンをまぜて見せてくれたら感動したと思うんだけどなあ。
合唱だけを見せるからちょっと退屈しました。
うーん、この映画でおもしろいと思ったのは、あれですね、団員が集まらない、出席しない人がいっぱいで、この先どうなるのかって会議するシーン。
あのシーンが怖くておもしろかった。内ゲバってこうやって始まるのかみたいな怖さがあった。それぞれのリーダーがうちの班は出席がこれこれで欠席者がこれこれって報告していく。欠席が多くて困ったと重い雰囲気のところ、
副リーダーの班が一番欠席者が多くて、副リーダーが実はおれ熊谷真美とできてて、彼女妊娠してるんだって告白する。
めでたいじゃないですか。仲間が一緒になって子供ができて、こんな幸せなことないのに、みんな暗い顔してんの。
みんな団員集めて必死に合唱やろうとしてんのに、男女交際にかまけて不公平だみたいな雰囲気なのよ。それがこわ~って思った。
岡本茉利は、男女交際してなにが悪いのよって言うんだけど、団長の山本圭らはわれわれは今合唱公演を成功させることが重要なんだから、やっぱり交際はダメだよみたいなこと言うわけ。
これ以前に岡本茉利が山本圭に告白してたんだけど、今は合唱のことがあるから無理って断られてたのがあったので、岡本茉利はなおさら腹がたったってわけ。わたしやめるって田舎に帰っちゃう。
副リーダーは責任とって合唱団をやめようと思うとか、思い詰めてるし。こうやって組織って仲間同士で糾弾しあって、粛清が始まって、それがエスカレートすると暴力の行使までいって、殺し合いになったりするんだなって、ちょっとぞっとするシーンだった。
いったいなんのためにベートーベンの第九をみんなで集まって合唱しようと思ったのか。ひとりひとり孤独に辛い人生をがんばってるけど、集まって喜びの歌を歌うことで、幸福を感じることができるんじゃないかっていう目的だったはず。
幸福になろうと始まったはず。
なのにやってることは真逆なんすよねえ。合唱公演を実現することがすべてになってて、かかわった人を不幸にする集まりになってしまってんの。
あの会議シーンはぞっとしたなあ。
総括しろとか言い出して、あのまま血みどろの抗争、粛清の嵐がふきあれてエゴラド合唱団は崩壊したっていう展開になってもおかしくなかった。
まあ、その後、何事もなかったように、誰もやめず、団員も増えて公演が成功する、ハッピーな展開になってたからよかったけど。
武田鉄矢は岡本茉利が好きなんだけど、相手にしてくれないから諦めてたんだけど、病弱な先輩のアドバイスで田舎に帰った岡本茉利に会いに行く。
夜勤があるからとんぼ返りで顔見るだけですぐ帰るんだけど、一瞬顔見るためだけに武田鉄矢がわざわざ来てくれたのが嬉しくて岡本茉利は戻ってきます。
こういうことだよなあ。こういう手間っていうかさ、時間を自分のために使ってくれるとほんと感動しちゃうよ。他人なのにわざわざここまでしてくれるのかっていうね。そういう気遣いが嬉しいんだ。幸福なんだなと。