自由黒人だった主人公が騙されて奴隷として売り飛ばされて、奴隷として十数年暮らして帰還するという話で、主人公の苦難の連続と絶望、そして僥倖と帰還が緊張感ある映像で描かれてて、物語の基本を押さえた作りでよくできてると思う。
主人公が困難にほうりこまれて耐えて最後に報われるみたいな。予期せぬ出来事で苦難の嵐にほうりこまれた主人公が、なんとか生き延びてもとの生活に戻るチャンスが来ないかと耐え、そして成功する。教科書みたいな基本構造の物語。
役者の演技もよかったし。苛つかせる嫌なやつ演技はおまかせ!のポール・ダノとか出てきて、感情を揺さぶるシーンも多いです。いい人だけど金欠でかつかつベネディクト・カンバーバッチ。キリスト教徒でキチガイじみたマイケル・ファスベンダー。
ブラッド・ピットがいい人役で出てきた。おいしいとこもっていったなみたいな。あまりにも真っ当で進歩的で正しいことを言う役柄で、ちょっと現実離れした感じがしましたね、あのキャラクターは。天使みたいなものじゃないかと思ったし。
苦しむキウェテル・イジョフォーを見かねてゴッドが遣わした天使がブラピみたいな。そんな感じにも思えた。それぐらい唐突で浮き世離れしたこと言う人だったから。
ああ、よかった~っていうエンディングなんだけど、奴隷制度というものがあること、それが当たり前の世界であることが描かれてることのほうが重くて、主人公が帰還できたことに、喜びもなにもないんすよねえ。
個人の物語として見れない。
彼は戻れたけど、戻れない、戻るところもない黒人奴隷がいて、そういうことが当たり前の世界であるということが、ズシーンとくる。奴隷制度ってなんなんだろうなって、そこばっかりに気がいっちゃうね。
自由黒人っていうのも、なんだよそれって思っちゃうよなあ。歴史をよくしらないけど、地域によって奴隷制があったりなかったりしてたってことっすかね?
個人がどうにかできるレベルのことじゃないからなあ。主人公がいくら頑張ってもどうしようもない。北部から来た大工のブラピに巡り合って手紙を書いてもらえたという偶然の幸運でしか脱出できなかったという描き方も、
冒険活劇だと見ると物足りない展開なんだけど、奴隷制があるということを描くのならこうならざるをえないんだろうね。
あと、奴隷を愛人にするのも描かれてました。それもなにかがどうにかなるわけじゃなくて、そういうことがありましたっていうのを描くだけにとどまります。若い黒人奴隷を愛人にする夫に嫉妬して奴隷を痛めつける奥様みたいなのをやる。
ただそういうことがありましたという描写にとどまってるから、なにかこう個人のドラマを見たい人にとっては表面的な薄い描写に思えて物足りないかもしれないです。