ダニエル・デイ=ルイスが演じるのは、1950年代のロンドンの仕立て屋。貴族相手の高級ドレスを作ってます。彼の作るドレスは最高に美しいと評判で大人気。
すごい気難しい男で、姉と二人三脚で仕立て屋をやってきた。ルーティーンを崩されるのを異様に嫌う。他人が自分の世界を崩すのを嫌う。
気に入った女を隣の部屋に住まわせて一緒に朝飯とか食うんだけど、自分の世界に入りっぱなしで、女を人間扱いしない。マネキンみたいにそばに置いておくけど、人間としての心の交流はしない。
だからだいたい女のほうが愛想つかせて去っていくパターンのようです。
そんでまた新しい女を物色。カフェで見つけた鈍重そうな田舎娘ウェイトレス、ヴィッキー・クリープスに目をつける。ダニエル・デイ=ルイス好みの体型をしてるとかで、ダニエル・デイ=ルイスはニヤニヤとデレデレ状態でナンパ。女のほうもまんざらでもないとついてくる。
天才仕立て屋が彼女のためにドレスを作ったりするわけだから、女のほうものぼせ上がる。
それでいつものようにダニエル・デイ=ルイスと一緒に生活し始める。そしてすぐに彼はいつものように自分の世界に閉じこもって女のペースを考えない。
朝食で彼女の食べ方がうるさいと文句つける。もともとがさつな女の人っていう描写がされてたけど、うるさいと言うほどじゃないんすよ。
姉はいつものことだって感じなんす。彼はああいう人間だから、変わらない、彼にあわせるしかないって言うんだけど、女のほうは、いや、彼は気難しいだけよ、私なりに愛してみるわっていろいろやります。
サプライズで二人きりの夕食やってみたりとか。ダニエル・デイ=ルイスの世界に干渉していく。あるときは、彼の顧客がひどい人で、あんな人にあなたのドレスが着られるのは耐えられないと、彼女からドレスを取り戻したりする。
偏屈なまでにガードが硬い。他人を自分の世界に踏み込ませない。そういうガードが硬いやつっていうのは、実は攻撃されると脆い。貧弱だから、過剰防衛してるってわけ。
なかなか落ちないダニエル・デイ=ルイスに業を煮やした彼女は、毒キノコを盛る。体調を崩して寝込むダニエル・デイ=ルイスを彼女が看病。うなされるダニエル・デイ=ルイスはお母さんの幻覚を見たりする。
母親と彼女を重ね合わせたのか、元気を取り戻したダニエル・デイ=ルイスは彼女に求婚します。病気で弱気になったときに、誰かに頼りたくなるのを利用した彼女の策略に完全にはまってしまう。ちょろい。
偏屈な男ってたいていこんなもんです。懐に飛び込んでこられると赤子同然です。
結婚してみたものの、彼女の下品な食べ方とか見ると、オレは何をしてたのか、これは失敗なのではないかとだんだん冷静になって思うようになる。仕事も手につかなくなる。
過ちを犯してしまったのか。気がついたときはもう遅い。彼女は妻という地位を得て、子供もできて、仕立て屋の仕事もいつの間にかやるようになってる。
ダニエル・デイ=ルイスが若い女をそばで黙って従順にいるマネキンのようであるように望んだように、彼女はダニエル・デイ=ルイスに弱くてわたしを頼る存在であり続けてほしいと笑う。
ダニエル・デイ=ルイスが癇癪おこして騒ぐと、お仕置きしないとねって、また毒キノコです。ダニエル・デイ=ルイスは彼女の庇護を心地よく思うように調教完了。
立場が完全に逆転。
なんか怖い話だったな。泥臭い毒女の物語。新聞の三面記事にのってそうな安っぽいよくある痴話事件。
ヴィッキー・クリープスが絶妙な存在感と表情。イモくさいのが絶妙。ただのおっとりした田舎娘かと思いきや、すごい冷たい顔するというか、怖い目をするんだよなあ。
なんの感情もない空っぽのマネキン人形みたいな空洞な目。勝つのはわたしなんだからっていう底知れない闇を感じる。愛ではなく闇。そりゃマザコンおじいちゃんなんか、簡単にひねられる。