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『同胞(はらから)』【映画のあらすじとネタバレ感想】


こういう商売もあるんだなと目からウロコ。あらすじを読むと田舎の青年団がミュージカルを上演するために奮闘する青春コメディっぽいんだけど、青年団は別にミュージカル好きというわけでもなく、自分たちで上演興行をしたいと思ったわけでもない。

倍賞千恵子が営業に来るんすよ。わたしたちの劇団の劇を村で上演しませんかって。過疎の農村で村は高齢化が進み始め、若者は出稼ぎに出たり都会へ移住したりしはじめてる地域。そこで牛飼って農業やってる青年団の会長、寺尾聰。

倍賞千恵子はそういう過疎地の青年団を回って、自分たちの劇団の劇を上演しないかという営業をして回るのが仕事です。

劇団が興行を主催するのではなく、その地域の青年団が主催するというご提案です。なので青年団が劇団へのギャラは払うし、チケットは売るし、もし赤字でもそれは青年団でかぶる。

こんなビジネス成立するの?って思うんだけど、そうか、倍賞千恵子たちが売ってる商品は、劇団の劇じゃなくて、劇団を呼んで興行をやってみんなで苦労して泣き笑いしたという経験なんだなと。

過疎地でさびれる一方で、生きる張り合いを失ってる若者たちに、お祭りをやってみんなで盛り上がったねという思い出を提供するのが倍賞千恵子たちってわけ。

なるほど、こういうビジネスのやり方、商品の売り方があるんだって目からウロコでした。

なんかね、倍賞千恵子が詐欺師のようにも見えて笑ってしまった。調子の良いこと言うできる営業ウーマンに見えてくる瞬間があって、苦笑いです。

顧客の懐に飛び込んで、情に訴えて、契約にこぎつけるできる営業マン。

だってさ、劇を上演しないかっていうんだけど、青年団はどんな劇なのかを実際に誰も見てないし、確認しようともしないで話が進んでいくんだもの。

いやー、普通、劇を上演するのなら、真っ先にどんな内容でどんな人が出てておもしろいのかおもしろくないのか、実際に見て確認したくなるもんじゃない?

誰も確認しない。

倍賞千恵子を信用して、倍賞千恵子の人柄で、悪い人じゃないから、悪い話じゃないんだって最初からなってます。すごい営業テクだ。

話はすでに上演するかしないのか、するとしたらどういう問題があるのかということからスタートしている。

いや、まず倍賞千恵子の話を確認して精査しようよって思うんだけど、倍賞千恵子のマジックにかかってるから寺尾聰たちは、こんなの失敗するに決まってる、やりたくないと思いつつもなぜかやるという方向へ進んでいく。

こんな田舎までわざわざ何度も来てもらって申し訳ないとか、感じなくてもいい負い目を感じている青年団。いや、倍賞千恵子が呼んでないのに勝手に来てるだけなんだけどなあ。

うまいんだよなあ。どうせ何もしなくてもつまらない。だったらなにかをやって、それで失敗したとしても、なにかをやったという気持ちだけは残るんだからやろう!ってなる。

思い出商売っていう感じかな。

でも、最後のほうは感動で泣いちゃったけどね。おれたちはやり遂げたんだって、泣く青年団と一緒に、見てるこっちも涙です。

チケットが売れず、上演まで1週間もない、もう中止かというときにみんなで村を個別訪問してチケットを手売り。

学校を劇場として使う予定が、校長の大滝秀治がお金をとる興行には貸せないと言い出して、もうだめかとなるけど、じゃあ、無料上演しますという倍賞千恵子の心意気に感動して大滝秀治が今回は特別と許可を出す。

困難にぶち当たって、それを乗り越えて、やり遂げた充実感の涙を見ててこっちも涙を流しました。よかった~って泣いちゃった。

これだ、これを倍賞千恵子たちの劇団は売ってるんだ!って。劇団なのに劇を売ってるわけじゃないんだ。感動を売る商売。

すごくない?劇団が劇を上演しようと思ったら、自分たちで小屋借りて、チケット売ってって考えようなものだけど、

そこは全部、青年団にやってもらう。リスクも青年団が引き受ける。自分たちは、ノーリスクで好きな演劇をやるだけ。大儲けはできないけど、大損することもない。

劇団の目的が演劇をやるということなら、こんなうまいやり方ないよなあ。

幸い興行は成功してチケットはたくさん売れて村人たちも劇を楽しんで大成功。劇の内容は、田舎の現状をそのまま劇にして泣き笑いさせる内輪ウケみたいな劇なんだけど、それが子供も大人も自分たち事に感じて楽しめて大ウケ。

収支も黒字がでて寺尾聰は牛を売らずにすんだ。

倍賞千恵子は、この一連の苦労と失敗と成功の記憶を寺尾聰たち青年団に納品したんだなと。

上演の成功の興奮さめやらぬ寺尾聰からのお礼の手紙が劇団の事務局に届くのだが、倍賞千恵子はすでに次のカモ、いや顧客獲得のために北海道に飛んでいたのだ。

倍賞千恵子、できるやつだなあみたいな。営業として雇いたい。彼女ならなんでも誰にでも売ることができそう。

この映画はビジネスマンが見るべきですね。商品をどうやって売るか。なにを提供する商品として売るのか。自分たちが売っているものがなにか。

リスクは顧客がとって、自分たちはノーリスクという状態をいかに作り出すか。なんかワンルームマンション不動産投資を売る投資会社みたいに見えてくる。顧客に不動産ローン組ませて、自分たちはノーリスクで手数料だけもらうビジネスを連想したなあ。

どうやって儲けるか考えるきっかけとなる映画じゃないすかね。ビジネスマンが見るべきマスト映画の1本に加えよう。営業マンの新人研修で見せたい映画。

いやー、でもヒヤヒヤもんだぜ。もし興行が大失敗でめちゃめちゃになってたら、青年団は仲間内で大揉め、寺尾聰は一生、あいつのせいでって陰口いわれて、暗い人生を生きることになったんじゃないか。

兄貴だっけ、井川比佐志からはほらみろいわんこっちゃないっていびられ続けるだろうし、役場の下絛正巳からも会うたびに、わたしは反対したんだって言われ続けるだろうし、牛は売って、散々なことになっただろう。

倍賞千恵子は詐欺師呼ばわりで石投げられる。

まあ、倍賞千恵子は別の土地へ行ってこの村によりつかなければそれでいいんだろうけどね。寺尾聰たちはどこにも逃げ場がない。そこでこんなリスクの高い勝負をなんの勝算もない状態で、勢いだけでやったと思うと、怖くてぞっとする。

なにもやらなくて後悔するよりも、挑戦して後悔するほうがいいってよく言うけど、失敗する前はそう思うけど、実際に失敗したらそんなに潔く考えられないもんだから。失敗したけどやってよかったなと笑ってなんかいられない。

上演興行が成功したのは奇跡だ。青年団が集まって飲み会するたびに、あんときお前がべこ売って埋め合わせするだって言ったときはヒヤヒヤもんだったべ、うんだうんだって、笑い合ういい酒の肴になる思い出を手にいれられたからよかった。

何十年も孫の代まで語り続けられるいい思い出を手に入れた寺尾聰たちは、なんとか村でやっていけるだろう。

まあ、こういう商売は今はさすがに無理ですかね。時代的にインターネットがない時代で、まだ過疎化が始まったぐらいのタイミングで、若者もけっこう田舎にいたから成り立った商売かも。

今だったら倍賞千恵子は何を売るかな。



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