第89回アカデミー賞作品賞受賞作品。
2016年の映画で監督はバリー・ジェンキンス。
アカデミー賞って面白い娯楽映画に
賞を与える賞じゃないっすよね。
何年かしてから、そういえばこれアカデミー賞とってたなって
思って見たら、なんでこれが受賞したのか
さっぱりわからないなんて作品がけっこうあります。
ハリウッドの映画人が、よくやったいい仕事したって
仲間の労をねぎらう意味合いが強い賞だから
時代性とかそのときの気運とかが
大きく関係すると思うんすよ。
このムーンライトもそういう時代の流れが
受賞につながった作品なのかなあと思いましたね。
ミニシアターでやるような小品で
通ぶった人が、
あれはなかなかのもんだよ、みんな知らないだろうけどね、
みたいに語るような映画っていうかね。
なんかムードの映画っていうかね。
雰囲気を感じる映画って感じしましたね。
なんかそういえば、
ムーライトがアカデミー賞とったときも
受賞はムーンライトなのに
プレゼンターがラ・ラ・ランドと発表して
すぐに間違いだと訂正されてムーライトが受賞となったことが
ニュースになってて
内容についてはあんま語られることがなかったような気がする。
ムードの映画だし、デリケートな要素が多いので
簡単に語ることができないタイプだったからなんだろうなあと。
こういうこじんまりとしたものが
求めらるタイミングだったんだろね。
まあ、なんつうんすか。
ある少年の話。
少年期、青年期、壮年期の3部構成。
少年はいくつになっても少年のままだっていうね。
そういう小さい話を格調高く、ムードいっぱいな
映像と音楽で作ったっていう感じ。
だから、このムードに酔える人以外は
お断りな映画になってんすよねえ。
突っ込んだところを描かないから。
いろいろあるんすよ。
少年の母親は薬中でネグレクト、
少年はゲイでいじめられっ子とかね。
麻薬の売人であるおっさんとの交流とか。
月明りの浜辺での恋心をよせる同性の友達との情事とか。
そして少年は子供のころに
交流があった売人のような男になってる。
少年にとっての良い大人のロールモデルが
売人のおじさんだったっていう悲しさ。
まともな扱いをしてくれるのが
売人のおじさんとその恋人の女の人だけだった。
でも母親が買ってるヤクはそのおじさんが取り扱ってるわけで。
自分が何者であるのかで悩み、
自分を受け入れてもらえるかどうかわからず
自信喪失のまま大人になっていく。
そこにすごく共感できましたねえ。
もう、ほんと子供のころ不安で仕方がなかった。
自分は何者なのか、何者になれるのかっていう
プレッシャーの中で暗い気持ちで毎日やりすごしてたのを
思い出しました。
そういう環境で育った少年が
おじさんそっくりの売人になってるのはなんかわかりますね。
そこだけがよりどころというか、心の支えで生きてきたっていうね。
まあ、それで古い友達から連絡があって、
気持ちは少年時代にもどってんの。
少年になってんの。
料理人になってるその友達に会いに行く。
期待と不安の入り混じった静かな興奮状態。
もうあのころのヒョロガリのいじめられっ子じゃなくて
ムキムキマッチョで高級車を乗り回す
いっちょまえの売人なんすけど
電話一発でもじもじして自信ない感じの少年時代に戻ってる。
あの感じがねえ、すごいムードあってよかったです。
まあ、どのポイントもがっつり重々しく描く感じじゃないんすよ。
とにかくムードで見せる。
なんか「マイ・プライベート・アイダホ」と
「ブエノスアイレス」を思い起こしたね。
ムードな映画なんだよなあ。
ある種のムードを映像と音楽で作ろうとする映画って
けっこう好きなので、ハードな話のわりには
見やすくてよかったです。
まあ、よくわからない話なんすけど、
あれこれ想像して考えることができる
余白が多い映画でもあるので
見てみるのもいいかもしれないです。