ミア・ゴス演じるパールは病気で車椅子で口もきけない父親と厳格で禁欲的な母親のもとで悶々と暮らしていた。いつかわたしはこんな田舎を出て、華やかなスターになるんだわと夢見がちの乙女です。
気持ちが高ぶると、我を忘れて喚き散らして凶暴になる。パールの情緒不安定、凶行を描くだけなので、ホラーがあまり好きじゃない人にはおすすめできないですね。
「Xエックス」はたしか見たことあります。田舎の家でポルノを撮影する話でしたっけ。借りた家の老夫婦が殺人鬼でっていうホラーだったというのはぼんやり覚えてます。老婆の性欲がすごくて、若さへの嫉妬と怒りで向かってくるみたいな感じだったかな。
あの老婆が若い時どんなだったかというのがわかる映画。
抑圧され続けた欲望が解き放たれるとき、血の海がみたいな。ここから出たい出たいと願い続けても、どこにもいけないように自分で自分を縛り付けることになるのが皮肉だなあ。
病気の父親を捨てるのは後ろめたい。厳格な母親みたいにはなりたくない。ここから連れ出してくれると思った夫は、農家暮らしをのぞむし、軍役で戦場へいってパールを一人にした。
農場で動物の世話して、父親の世話して、母親のような人間になる人生は嫌だという思いだけがつのっていく。
ドサ回りのダンサーを募集するオーディションがあって、これに合格すればここから出ていけると希望をかけるけど、パールは不合格。
終わった、すべて終わった~って、絶望すんだけど、自分で自分を終わらせとるんや~っていうね。
出ていきたいなら、全部捨てて出ていけばいいようなもんに思えるけど、変に人間味があるというか、情があるのでねじれてしまうって感じでした。
変な純粋さというかなあ。
パールとかかわる人間が、最初は楽しく会話してるのに、だんだん怖くなってきて、あ、そうだ、約束あったからもう帰らないとって気味悪がるのがおもしろかった。
パールの純粋さに、うんうん、わかるよ、いいよ、そうだねって聞いてるんだけど、だんだん、あれ?おかしいなってなるのがおもしろかった。
映写技師の男、夫の妹だっけ、最初はなんかすごくわかりあえていい友達だみたいなムードなのに、パールが思いを吐露していくと、恐怖のムードにかわっていく。
こいつやべえみたいな。
そういうパールの異常性がこの映画のおもしろいところでした。ミア・ゴスの表情演技がすごいのよ。笑顔が顔の筋肉をひきつらせた力みまくった笑顔でこわーって感じ。
最後のエンドロールでミア・ゴスの笑顔がずっと映されるんだけど、あの泣き笑いの顔はエグかった。
戦地から帰ってきた夫が食卓に座らされたパールの父親と母親の死体を見つける。いったい何が……っていうとこに、パールがやってきて見せる笑顔なんだけど、なんとも言えないなんの笑顔なんだって感じ。
いろんな感情がこめられてるような笑顔に見えたなあ。
表面的には夫が帰ってきてうれしい笑顔かもだけど、パールは夫を恨んでもいるし。父親も母親も殺した。映写技師や義理の妹はワニの餌。
夢も希望もついえてのところに夫が帰ってきての泣き笑い。
顔面の筋肉がこわばりまくった笑顔でこわ~。
時代設定は1918年で、Xは1970年代だったっけ?
行き場のない、純粋培養され続けた欲望と狂気は田舎の農場の家でくすぶり続けることになるわけか。そして出来上がったのが、Xのあの老婆。こわー。