この映画でも、ハチャメチャに能天気で明るいシーンの合間合間に死をぶっ込んできます。基本的には、弓道部の仲間たちと明るく楽しくはしゃぐ学校生活が描かれます。スカートめくりなんかやってくる幼稚な男子弓道部のやつらとのじゃれ合い。
夏合宿に行って海水浴タイムにフルチンではしゃぐ男子部員とかさ。顧問は岸部シローで熱血指導とは程遠いゆるい運動部の楽しい部活。富田靖子は高校一年生だっけ。元気いっぱい、自転車漕いで登校して遅刻寸前常習犯。愛称、ラブたん。とにかく元気がすごい。小動物が元気を持て余して所狭しと動き回るようなエネルギー満天の女の子。
なんか富田靖子はオーディションで選ばれて、この映画がデビューだったらしいです。いやー、すごいもんですね。デビューでまだ子供なのに、普通に感情爆発させて演技できるってすごいもんだなと。これも若さのすごさなのかみたいな。
素でやってるようで、このハイテンションは素じゃなくてちゃんとキャラクターを考えて演技してるなって感じでした。富田靖子の友人たちもうまいんだよなあ。松下由樹が仲間のひとりで出てくるんだけど、ほんとうまいもんですよ。
ついでに監督の今関あきよし氏もこの映画が商業映画デビューだったらしいです。まだ23歳ぐらいでしたっけ。大林宣彦監督が見出して監督することになったとからしいんだけど、普通に劇映画として成り立ってるのを作れてる。
富田靖子演じる主人公の目下の関心事はクラスメイトで同じ弓道部の紅子。彼女に我慢がならない。男子ウケを狙った行動を自然にとる要領良いぶりっ子な性格にイライラする。でも実は彼女は紅子みたいな女の子に自分もなれたらなっていう思いがたぶんあるんですよねえ。
自分はあれほどうまくやれない。それが羨ましくもある。だから気になっちゃうみたいな。幼馴染の彼氏と別れたばかりというのもあるのかも。紅子は中学生から弓道やってたからうまい。自分は下手。合宿で歯磨きするとき、紅子は電動歯ブラシなんかつかってスマートに歯磨きしちゃってんのを見ても、自分とは違うと気持ちが沈む。
理想と現実の乖離が気になって憂鬱になってくるのが、高校生ぐらいの年齢なのかな。まあ、そんで死の影なんすけど、よく考えたら映画の始まりからして死だった。6つのクリスマスに飼い猫が死んだっていう話からスタート。
あとなんだっけ。合宿で首吊り死体を発見。発見するのは富田靖子じゃないですけどね。あとキャンプファイヤーで同級生の中絶費用をカンパした話が出てきますね。堕胎というのも死だし。そのカンパに協力しなかったのが、ラブたんと紅子だったというのも、二人は正反対のようで実は表裏一体の存在じゃないかと思わせる。
悩みを母親に相談して、死にたくなるわあって言ったら、じゃあ死んでみんさいっていわれて、勢いで腕を切ってみたけど大事には至らずみたいなこともありましたね。
あとは先生か。紺野美沙子が赴任してきて、富田靖子と同じ愛子という名前で親近感あるし、弓道はうまくて知的な大人の先生って感じで、ある種理想的な大人像だったわけだけど、紺野美沙子は自殺してしまう。
まあ、死なずにすんだわけですけども、あの先生が自ら死を選んだということにショックをうける富田靖子。理由は詳しくは描かれてないですが、紅子に体調がすぐれないところを目撃されたり、富田靖子が屋上から紺野美沙子が男性と相合い傘で帰っていくのを目撃したりのシーンから考えると不倫かなんかですかね。
不倫相手の子供を身ごもったことから悩んでの自殺未遂。まあでも、紺野美沙子は死なずにすんだ、見舞いにいったらけっこう元気そうで安心した、紅子も見舞いに来てて、彼女ともなんだか打ち解けた、屋上に捨て猫がいて、子供のときにお宇宙にいったミーコが帰ってきたみたいな展開になって、けっこう明るい展開に転換していくように見えましたが最後にまた死の影がやってきます。
見舞いの帰りになぜか駅前の道路がギャラリー集まってて大混雑してます。警察も出動しててなにかの事件なのか事故なのかみたいな物騒な空気が漂ってる。なんかよくわからないんすけど、暴走族の集団暴走があるとかで人が群がってるみたいなんすよ。群衆にもみくちゃにされて離れ離れになっちゃう、猫と紅子と富田靖子。
そこで富田靖子は、暴走族の一人が乗ったバイクが車に衝突して大クラッシュ、運転していた少年らしき人は足や手がぐちゃぐちゃにひん曲がって道路に叩きつけられるのを目撃する。
帰宅した富田靖子は半狂乱で泣きわめく。お父さんの犬塚弘とお母さんの藤田弓子は、泣いている理由がわからず、ただただ混乱するのだった。
このおそらく死んだ少年は、富田靖子の元彼なのかもしれないし、違うのかもしれない。別れて電話でしゃべるシーンや、バイクにまたがって女の子としゃべる元彼を目撃するシーンとかで、元彼がバイク乗りで暴走族にも最近参加してるっぽいのが描かれていたから元彼かもしれないですね。
底抜けに明るい若者たちの生命力の発露と同時に、死の影が一緒に描かれる。こういう青春もの多いですよねえ。
自分が高校生ぐらいのときどうだっただろう。明るい楽しい学園生活はなかったけど、それほど死の影について考えたり、不安になったりはしてなかったかな。明るく元気でもなく、暗く不安でもなく。
ただただ無だったような。映画で描かれるような青春時代はやっぱり映画の中にしかない。