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『すずめの戸締まり』【映画のあらすじとネタバレ感想】


うーん、これはなんといったらいいのでしょうか?わたしの知ってる昔の新海誠じゃないっていう感じ。新海誠監督作品のファンでもないし、好きというわけでもないけど、新海誠作品のいいところ、初期の作品のいいところは、やるせなさ、行き場のない気持ちのモヤモヤ、悶々とした感情を噛み締めてたそがれるみたいな、そういう気持ちの動きが描かれているところだと思ってます。

何ひとりでうじうじしてんだよ!って思っちゃうけど、おもしろい話かどうかは別として、そういう感情の揺れ動きが表現されているのが新海誠作品であり、特色だと思ってたんすけど、最近の作品はそうでもないんですよね。

いや、最近でもないのか。けっこう前から感情が見えない、登場人物の気持ちがわからない、表面上のアクションだけ描かれるという感じに変化しているっぽいのかな。よく覚えてないので印象でしかないけど。

うじうじはうけない、というかマスにはうけないというのを学習したんだろうなあ。だから行動、行動、行動、気持ちは知らんという描き方にシフトして成功してきた。

この映画もそうでした。出てくる人たち、主人公が一番ですけど、気持ちがわからない。感情の動きが見えない。冒頭から話は急展開して休む間もなく大移動が始まってあれこれ状況の変化が描かれる。

だけど、主人公の気持ちがまったくわからない。道端で見かけたロン毛の変な男を一目見て綺麗だと思い一目惚れ。気になって後をつけて扉がどうこうだとか、石を抜いてミミズがどうしたとかって意味不明なことにまったく疑問も持たず、まったく迷いもなく流れるように展開する。

ねえ、君、この辺に廃墟はないかい?とかいう男がいたら、なにこれ怖いって思うけど主人公はズキューンと恋しちゃったらしいです。そっから猪突猛進。

ついてくるなと言われてもなんのその。相手の気持ちなんかお構いなしに恋愛モンスターモードでわがままを突き通す主人公。迷いなくわがまま放題する主人公。

どういうこと?何を考えてるのかわからない。てっきり後でこれはすべて運命で主人公は前前前世で彼と因縁があって、ひょっとしたら封じ師の家系の人で、二人は前世で夫婦だから彼に一目惚れしたとかいう展開になるのかなと思ったけど、そういうわけじゃなかったです。

何もそういう運命がなく、彼女はただ一目惚れして押しかけ女房して、この騒動に巻き込まれたらしい。よくわからないです。行動に一切迷いがない。何もかも最初から知ってる理解しているように見える。

日常に居場所がなくてなにかをきっかけに飛び出したかったのかというとそうでもない。親はいないけど世話焼きの叔母さんがいてとくに不自由してないみたいだし、学校に居場所がないわけでもない。

普通に日常を楽しんで生きてる高校生っぽいのになんで突然見知らぬ男と家出するのか。いや、別にそれでいいんだけど、だったら彼女の気持ちの動き、感情の変化を描いてくれたらいいんだけど、そこはまったく描かれません。

漫画やアニメによく出てくる元気よくわがままして周囲を振り回すラブコメキャラクターで感情の起伏がない。ずーっと好き好き好き。理由も迷いもない。

石が喋る猫になったり、ロン毛の男が椅子に封じ込まれて走って喋れる椅子になったり、ファンタジー的なキャラクターのドタバタによって話が展開していく。そこに主人公の気持ちの変化や感情の描写はありません。

わーわー騒いでいるうちにあちこち移動していってるだけ。こうしなければいけない理由やどうしてもこうじゃなきゃいけないみたいな理由が主人公の気持ちの中にあるというのが描かれないので、ただなんかファンタジー風味のアクションシーンが続くなあっていう。

頭のおかしい家出少女が適当なファンタジーキャラと一緒にあちこち騒いで移動してますっていうだけ。これが若さか……。誰か止めろよ、大人が、って思うけど、ちゃんと若者を導ける大人はいない。

旅の途中で出会う大人は家出を咎めずニコニコご奉仕してくれる都合の良い大人。保護者の叔母さんは追いかけてくるけど、やっぱ強く言えないんだよね。小さいときに親を亡くした不憫な子っていうのがあるから、本気で怒れない。

化け物に乗っ取られたときだけ本音をぶちまけられる。ガミガミ言うけど、気持ちは遠慮してるから主人公になめられてる。

ロン毛の兄ちゃんは大人というにはまだ若造だしなあ。もう君はいいから帰りなさいと言っても、椅子だからまったく聞き入れてもらえない。

爺さんが、さっさと家に帰れ!って恫喝してたけど、主人公は秒で嫌ですって拒否してたもんなあ。スマホがあれば家出も快適にできちゃうジェネレーションの主人公からしたら、病院のベッドで寝たきりでいつ死ぬかもしれない老いぼれが何言ってんだって感じで聞く耳持たないだろう。

真っ当な大人、若者を納得させる大人の不在。まあ、これは若者が主人公の話ではよくある設定だけどね。

なんなんだろう、何してんだろう?ってずっと首を傾げて眉間にシワが寄ってしまう。まあ、それでもこの話の設定がただの冒険だったり不思議な出来事を取り上げているのであれば、見た目の動きの面白さだけを楽しめばいいと思える。

だけど、これ3.11の地震や津波のことの話じゃないですか。主人公は3.11で母親を亡くしてしまったという設定ですよね。だったら、もっと真正面から震災に向き合った物語として描けなかったのかなと思ってしまう。

初期の新海誠作品のように、登場人物のどうしようもない気持ちの揺れ動き、行き場のない思いに悶々とするというのを見せる、気持ちの変化を見せる描き方で3.11をテーマにするということができたんじゃないかと思ってしまう。

3.11を使って描くのなら、人の気持ちを描くしかないのに、そこをすっぽり抜かして変な安いドタバタファンタジーラブコメドラマにしちゃったのはなぜなのか。

気持ちの動きを描くことをおろそかにして、ダイジンがどうのこうのとか閉じ師がどうのこうのとかまったく練られていない適当なファンタジー要素で話を展開していく形になぜしてしまったのかと疑問に思ってしまう。

閉じ師ってなんだよって笑うしかない。あんな時代錯誤なロン毛兄ちゃんが、ふらっと一人旅して扉を閉めて回ってる?いや待ってくれよ、地震や災害って日本全国各地で突発的に起きてるのに間に合うの?そんなんで。

偶然遭遇できなかった、間に合わなかったものはそれはそれでいいっていう考えなんだろうか?閉じ師はたくさんいて全国に支部とかある巨大組織なんすかね。日本以外にもいたりすんのかな?海外は別ですかね。どうなんすかね。

どうなんすかねえといえば、後半故郷へのドライブが始まる。都合の良いドライブ。ドライブシーンに懐メロかけたり、事故ってあちゃーみたいなギャグシーンやったり、なんのつもりなのかなあっていうね。面白いと思って作ってんのかなみたいな。

それで最後バトルでわちゃわちゃしてロン毛の男を救出して、主人公も母親を失ったときの気持ちを思い出し、自分で自分を慰めてハッピーハッピーですって終わる。なんものれない。とってつけたようなクライマックスに思えちゃう。

大災害で親を亡くした人の気持ちの整理なんかつくわけない。解決も正解もない。そういう行き場のないやるせなさを真っ向から描けるのが初期新海誠アニメだったはずなのになあと。

叔母さんの主人公を引き取ったせいで、人生を台無しにされたという本音の吐露を聞いて主人公もそうしてくれとは頼んでないみたいな、お、これはいいですね、どんな衝突と解決があるのかなと期待させたシーンがあったけど、言い過ぎたメンゴメンゴで何事もなくそれまで通りになってて、肩透かしすぎる。

ここをなんで深掘りしないのか。気持ちの動きを描こうとしない。

終わってみれば、結局なんだったのかよくわからないと思ってしまった。主人公の気持ちは最初から最後までわからない。主人公を助ける都合のいい存在でしかない人間味のない登場人物たち。適当なファンタジーキャラたち。なんだこれ?っていう疑問しかない。

声優もあんまり好みじゃなかったですね。主役の人の、はっとかうっとか驚いたときとか必死なときに息が漏れる演技がくどい。いかにもアニメアニメした声演技でげんなり。冒頭の喘ぎ声はなんだったんだ。うわ、いきなりエロシーンから始まるのか?ってびっくりした。

高校生ってこんなにメルヘンというか幼いのかなって思うシーンもありました。椅子にキスするとかちょっと幼すぎないかと思ったけどなあ。目覚めのキスで王子様が目覚めるっていうノリで高校生がマジで椅子にキスとかするのかなあって。幼稚園児とか小学生の女の子ならありそうだけど。

ちょっとフェチ的な気持ちの悪さも感じたなあ。わざとエロ要素をそれとなくわからないように散りばめてるように感じたけど、広告の手法を応用してそうしてるのかな。性的なメッセージを広告に埋め込むと人はそれを無視できないので注意を引いて印象を強くすることができる。

あのホストみたいな車の兄ちゃんは、なんかゲイっぽくなかったかなあ、ロン毛男に惚れてるように見えたけど違いますかね。仲の良い友達というよりは、恋心をもってるように見えたけど。服装のセンスがBL漫画の中に出てくるゲイっぽく感じた。

ロン毛男への執着心は主人公に負けてないと思っちゃった。これもわざとそうしてるのかなと。

まあ、猫の絵も声も、これもアニメアニメしすぎててちょっときつかったなあ。

なんだけど、これめちゃくちゃ大ヒット作品ですよね。なんなんだろう。やっぱり表面上のドタバタが面白いほうが大人数には受けやすいということなんだろうか。ウジウジしたどうにもならない気持ちを噛みしめるみたいな情感あふれる描写の映画だとマスには届かないということなのかなあ。

それに理屈っぽいというか、あれこれ理由や動機を描かないとのれないのは年寄りで、そんなことどうでもよくて、今この瞬間を躍動して動いてるという姿を単純に楽しめるのが若者だから、若い人にはうけるってことなんかなあ。

まあ、そうですよねえ。初期の新海誠作品は大衆受けはしてなかった。大ヒットもしてなかった。初期はSFだったりファンタジーの世界で登場人物たちがどういう気持ちでどういう感情の変化があるのかを描くのが主だったっけ。

それがだんだん気持ちが置いてけぼりで、アクションのほうが肥大化していって、感情を描くことが消えていった。3.11もただの設定の一部として使われていただけ。残念ですね。震災、親を失ったこと、そして今生きること、全部が恋愛話の背景でしかない。

まあでも、震災でひどい体験をしたとしても、現在の恋愛のほうが大事っていう前向きなメッセージなのかもです。

宮崎駿のジブリアニメを研究してこういう形になったのかな?話や登場人物の行動はおかしなところばかりだけど、絵の躍動感とかさ、走ったり車ぶっ飛ばしたり空から落ちてきたりでっかい神様があばれたりとかさ、そういう絵力で強引にねじ伏せていくのが宮崎駿スタイル。

そういえばジブリっぽいアイテムはいっぱい出てきたような。ロン毛男はハウル。喋る猫は魔女の宅急便。ダイジンは崖の上のポニョでポニョが男の子のこと好きって無邪気にいってたのを連想したし、もののけ姫みたいなでっかい犬も出てきたし、穢れを封じるみたいなのももののけ姫か。

未成年が大人の店でアルバイトするのは、千と千尋の神隠しだし。あとなんだろ。ジブリファンの人だったらもっといろいろ気が付きそうですね。


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