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『PERFECT DAYS』【映画のあらすじとネタバレ感想】


こんなふうに生きていけたなら……、って生きたくないよ!こんなふうに。あらすじや評判を聞いてた感じだとほのぼのしたシンプルライフの映画だと思ってた。実際に見たら地獄でした。人生をかけて父親に復讐する息子の物語だった。

公共トイレの清掃員として働く役所広司の日々の暮らしの様子をYoutubeのルーティーン動画のごとく淡々と描写していきます。

朝起きてヒゲを剃って盆栽に霧吹きして自動販売機の缶コーヒーをのんで車を運転して公衆トイレを掃除してまわって、神社で昼飯食って、帰ってきて銭湯の一番風呂にはいって地下街の立ち飲み屋で晩酌して寝る前に文庫本を読んで寝るみたいな。

住んでいるところは風呂なしのボロアパート。家の中には物がほとんどない。カセットテープで昔の洋楽を聞く。カーステもカセット。フィルムカメラで神社の木々の木漏れ日の定点写真を撮る。たまに石川さゆりがママをする小料理屋に顔出す。

休みは古本屋で100円コーナーの文庫本を買ったり、コインランドリーで洗濯したり。

決まり切った毎日の仕事と自分の時間を繰り返す役所広司を映し出す。役所広司はほとんど喋りません。前半は不自然なぐらいまったく声を発しない。同僚の柄本時生にベラベラ喋りかけられても、ほとんど応答しない。

他人と意図的に親しくならないように、無言を貫いているように見えます。無言の行をしている修行僧のよう。でも、偏屈で人との交わりが嫌いというわけではないのが、ところどころの描写でわかります。

もっと他人と深くかかわりたいと思っているけど、なぜかそうしないように自分自身を制しているように見える。なんだか息苦しそう。

口ひげを丁寧にはさみで手入れして、身なりはきちっとしてるし、仕事のトイレ掃除も丁寧で手を抜かない。

どこかハイクラスな人の上品さみたいなオーラを役所広司に感じてしまいます。年季の入った肉体労働者にはまったく見えない。顔も日焼けしてなくて青白いし。もともとこういう生活をしていたわけじゃなさそうに見える。なにかがあって、意図的にこういう暮らしを自分にすることを強いているように見える。

後半に妹の娘が家出したといって訪ねてくる展開があります。それで妹が迎えに来るんだけど、運転手付きの高級車で来るんすよ。話の感じからすると、役所広司は父親と反りが合わずに家を出て喧嘩別れみたいな状態らしい。

父親は資産家とか実業家とかで、ものすごい裕福な家柄なんだろうね。その息子として父親の後を継ぐように育てられた役所広司がそれを息苦しく感じて、父親に反抗して家を飛び出したみたいなことが過去にあったんではないかと想像してしまいます。

そして父親に反抗する、復讐する方法として、父親が一番軽蔑してバカにする生き方をしてやろうと思ってトイレ掃除という仕事を選んだのではないか。妹の麻生祐未がほんとにこんなところに住んで、トイレ掃除の仕事をしてるの?って聞いてた。

トイレ掃除なんて自分たちがやるようなことじゃない、使用人か下等な人間がやる仕事なのにとでも思ってるふうです。父親に復讐するために役所広司は今の暮らしをしているんじゃないか。

役所広司の表情にどこか苦しさというか暗い影を感じるのは、彼の人生が安らかなものではなく、復讐の炎につつまれた苦痛の人生だからかもしれない。自分で好きで選んだ生き方ではないから悲壮感があるんだよなあ。

ときどきいったい俺は何をしているんだみたいな表情をするのが痛々しくて苦しくなる。

最後、朝日だっけ、夕日だっけかにむかって運転する役所広司が泣き笑いの表情でいるのは、はたして今の自分の生き方が正しかったのかどうか、彼自身わからないことへの後悔、肯定のいりまじった感情のあらわれではないのか。

これでよかったのか、別の生き方があったんじゃないか、やり直したくてももう時は戻らない、いや、これでよかったんだみたいな。目まぐるしく変わる自分の人生への採点。王に反抗するために、野に下り下賤の民のなかで貧しい暮らしをする王子の物語。人生は地獄だな。

こんなふうに生きていけたならって宣伝文句は、どういうつもりなんだ。思うように生きられない男の姿を延々と映し出している映画にこんなコピーをつけるなんて。こんなふうに生きるとは思わなかったけど、どうにもならないのが人生だっていう映画なのに、このコピーはないよ。

コピーをつけるなら、“こんなふうにしか生きられない”だろう。

のどかなシンプルライフ、ミニマルライフ讃歌の映画だと錯覚させて、ミニマリストとか質素倹約生活に関心がある層を劇場に越させようという作戦だったのかな?ロハス映画みたいな感じを期待する人たちを釣ろうとしたのか。

中身は初期黒沢清作品のような怖い映画だった。監督はヴィム・ヴェンダースだけど、黒沢清の復讐シリーズにPERFECT DAYSを加えてほしいぐらいだ。

人は不器用にしか生きられない。そういう辛くて悲しい映画で、ヴィム・ヴェンダース監督らしい映画だといえばそうだったですね。「パリ、テキサス」とかヴィム・ヴェンダース監督作品は不器用にしか生きられない登場人物が描かれるイメージある。

これ、続編見てみたいですね。役所広司がトイレ掃除やめて、父親と和解して上級国民の人生に戻っていく物語。金持ち暮らしをしたからといって、それはそれで満たされない人生だみたいな。

反逆王子の帰還の物語。ANOTHER PERFECT DAYS。乞うご期待。


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