何がしたいんだろう?それがよくわからない。逆行というのをやりたいんだろうけど、それがおもしろくできてない。今までクリストファー・ノーラン監督は、夢の中の夢とか、記憶の持続しない男の話とか、時間や場所をこえた高次元とかそういう仕掛けのある映画を何度も作ってますね。
設定の説明をいつもけっこううまくやってて、観客にこういう不思議なことが起きる世界設定なんすよって、難しいことは抜きになんとなくイメージできるようにしてましたね、これまでの作品は。
理屈や仕組みは知らんけど、ああ、こういう現象が起きる世界っていうことねという納得感は感じさせてくれるように作られてた。
それがこのテネットでは、うまく全然できてなかったです。最初に弾丸が逆行する説明シーンが少しあったけど、あれだけではまったくよくわからない。あの説明だけでは何がどうなったらどうなるのかが全然よくわかりません。
それでよくわからないまま、主人公があちこち移動してあちこちでなにか人にあったりなにかミッションをするという、ジェームズ・ボンドスタイルの展開が進んでいく。ボンドガールみたいなのが出てくるし、わけわからない悪の敵とか出てくる。
これ007じゃないかって思ったなあ。わけのわからない007映画。
最初で何がどうなってるのかよくわからないし、逆行という現象もイメージしづらいし、観客はつまずいた状態で置いてけぼり状態になっちゃう。なのに主人公はあちこち行ってなにかやってる。これはストレスしかたまらない。
エントロピーがどうしたこうした、エントロピーの方向がなんちゃらかんちゃら。逆回しに動く、結果はすでに出ている、そこらへんの仕組みを観客がイメージできない。なんかもうちょっと映画的に簡単にわかるレベルまで煮詰めてほしかったなあ。
何をしてるのか?これはなんのシーンなのか?世界の危機なんだっけ?その世界の危機というのもどういう危機なのかが全然わからないのでさっぱりなんです。
一番の問題は逆行の映像が全然おもしろくないことじゃないか。逆に動いてる映像が、だからなんなの……としか思えないつまらない映像なのです。設定もよくわからない、そういう現象になる理屈もわからない、映像もつまらない。
青チームと赤チームで未来からの逆行と現在からの順行で挟み撃ち作戦だとか言われても、言ってる意味はわかるけど、じゃあそれを映像でどうやっておもしろく見せてくれるのかが重要なんだけど、おもしろい映像、わかる映像で見せることができていない。
凝った仕掛けをいろいろして、それがひとつもうまくいってないみたいな。これがさあ、映像が見たこともない斬新な映像とかだったりしたら、話はともかく映像体験としてよかったよって思えるだろうけどね。
映像ぜんぜんおもしろいとこない。
アクションシーンの映像もそうなんだけど、会話シーンの退屈さもすごい。世界の危機を救うとか、エントロピーの方向がとか、未来の科学者がどうのこうのとか、スリリング要素のてんこ盛りのはずなのに、映画は退屈の大盛りというね。
見直す気にもならない。あのときのあのシーンの時間にはもうすでにこういうことになってて、主人公たちがあれしてこれしてすでに結果が出てたんだっていうのをもう一度見て確認したいという気分にならない。
珍しいですね。わけがわからなくて、もう一度見たらいろいろわかりそうなので何度も見たくなりそうなものなんだけど、もう一度見ようという気にはまったくならないというね。知りたいと思わない。
それぐらい退屈だったということですね。なんだろうか、つまらない007シリーズの1本を見たなという感じでした。