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『時雨の記』【映画のあらすじとネタバレ感想】


ファンタジー映画。老境に差し掛かった人間が夢想する願望。なんだろな。おれの人生こんなはずじゃなかったって誰しも思うもんなのかなあ。渡哲也は建設会社の専務。仕事で出世し、豪勢な家に住み、妻と息子がいて、何不自由ない人生を歩んできた。

それがさ、50才後半に差し掛かり、引退が見えてくる年齢になって、おれの人生こんなはずじゃないっていう思いが強くなってきてるわけ。仕事を一生懸命したのは、家族のため、お国の発展のためであって、自分がそうしたかったのかというと疑問符がつく。

俺がしたかったのはなにかと自問したところが、好きな女と慎ましやかに暮らすことが望みだったとわかる。若い時に葬式で出会っただけの吉永小百合のことがずっと頭から離れず思っていた。こんな女と一緒に暮らしたいという理想の女、吉永小百合。

それが今、偶然再会したことで渡哲也は吉永小百合に猛烈にアプローチするってわけ。

嫁も子供もいるのに、そっちは後でなんとかするみたいな適当さで、呑気に吉永小百合に接近していく渡哲也。そこがなあ。どうもね。なぜ家庭を先にどうにかしてから、吉永小百合に行かないのかというね。そこが男のずるいところですね。

家庭は家庭、恋愛は恋愛みたいに都合の良いこと考えてる。もう散々他人のためにつくしたんだから、したいようにさせてくれてもいいだろうという謎理論。奥さんがブチ切れるのも無理ないですね。

自分だけが我慢して、やりたいことをできなかったみたいな態度だけど、他のみんなもやりたいことできずに悔いのある人生を歩んでるわけで、そこに気が付かない渡哲也。渡哲也の頭の中はお花畑で、自分の理想とするファンタジーを追うことに夢中になっているので周囲がまったく見えていません。

極端なこというと、吉永小百合のことも見えてない。渡哲也が見ているのは、頭のなかにある理想の吉永小百合像であって、現実の彼女ではありません。強引にファンタジーを押し付けて、吉永小百合が根負けするまで押していく。

それであとは、狭心症でいつ突然死してもおかしくないという体調不良から、吉永小百合が同情的になって、二人は愛人でもなく妻でもなくのよくわからない関係が完成。吉永小百合は渡哲也の押しの強さに根負けしただけのように見えたけどね。

弱ってる人をみると、ほっとけないナイチンゲール症候群で恋愛感情とはちょっと違うような。頭の中のファンタジーを押し通そうとする渡哲也。渡哲也のファンタジーにつきあう吉永小百合。だからあんまりロマンチックなムードにはなりませんでした。

渡哲也がなぜかスペイン行ったり、京都でデートしたり、映像はムードあってよかったけどね。

人生の佳境にさしかかると、人は焦ってとんでもない行動にでるんだなぐらいにしか思えない。まあ、悲しかったかな。若く気力も未来もあるときは、自分のしたいように生きられず、老人になって体もがたがきて未来がなくなってから、初めて自分らしく生きたいと決心できる。

そしてそんなファンタジーを他人は理解してくれない。まあ、夫が突然、彼女作って彼女とつつましく暮らす終の棲家を設計し始めたら、妻は、え?どういうこと?ってなるしかないけどね。

しかも渡哲也は、もう長年さんざん尽くしたんだからこれぐらいのわがまま許してくれてもいいだろみたいな態度なんすよ。奥さんにしたら、ポカーンですよ。多分、渡哲也は仕事人間で家のことはまったくなにもせず、奥さんを気遣うこともなく、仕事仕事で今までやってきてると思う。

そんなやつが、おれを自由にしてくれ、今までさんざん他人のために生きてきたんだからとか平然というんだから。奥さんブチ切れるのもいたしかたなし。

まあ、みんなそうなんだろうなあ。自分は犠牲になった。他人のために自分を押し殺して生きてきた犠牲者だっていう意識はみんなもってるのかもしれないね。

そんで映画の結末というと、京都だかどっかに終の棲家を建設して、吉永小百合と暮らすという渡哲也の夢は、狭心症であっけなく亡くなることで実現せずに終わる。でも、夢をかなえようと吉永小百合と過ごした時間が、夢のような時間だったわけだから、夢はすでにかなっていて渡哲也は幸せだったのかもしれないっすね。

残されたほうは大変だけど。


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