伊藤雄之助はやっぱいい顔してますね。味があるもんね。ブリキ職人だけど酒が大好きで怠け者。なので家計は火の車。嫁がなんとかやりくりして、っていうかあちこちで借金して自転車操業。借金の無心に子供行かせるとかやり手ですね。
まだ小さい子供が二人。しっかりものの女の子とぼんやりしてる男の子。そんな彼らとその周囲の人間たちのボロ長屋暮らしドラマです。
いきなり正月だけどお金がないから餅も買えないとかから始まりますからね。奥さん内職。これじゃあ年も越せないって、知り合いに借金してやっと餅にありつく。家族みんなで正月に餅食ってニコニコです。
今年はおれもやるぞーとか伊藤雄之助が空元気で浮かれてるのが新年っぽくていいね。新年ってなんであんなにいっちょやるかって空気になるんだろね。正月といってもただの1日にかわりはないのに。
隣に住んでる傘の修理屋さんのとこは、奥さんが病気で悪くて長くない。まだ若いし子供も小さいのに死んじゃう。それを機に傘屋さんは田舎に行く。子供つれて行商しながら行く。家賃とかは基本ためてます。
伊藤雄之助のとこもずいぶん長いこと滞納してて、家主はいつ夜逃げするんじゃないかと見張ってたりするわけ。ちゃんと払ってくれないと困るよって見てるんだけどさ、じっさいに伊藤雄之助たちが夜逃げするとき、気づいたけど声をかけずに見逃すんすよ。
家主も店子が家賃を払えないぐらい暮らしが苦しいのはわかるから無理に取り立てできないのが人情ってもんですかね。踏み倒されたら、自分が困るんだけど、そこはなんとかほかでやりくりってなもんでしょうね。
みんな苦しいから、どこかで自分も折れないといけないなっていうのがあるんだろう。伊藤雄之助の家は電気料金滞納で電気もとめられる。電気のとめかたもおもしろいんだ。電線から家のほうにつながってる線を電気屋がちょんぎって停止。
またあちこち借金でなんとかやりくりしようとするんだけど、借金できて一息つけると思うと、つけの支払いお願いしますと集金がきてまたお金がなくなる。
伊藤雄之助が毎日楽しみにしてる酒を買う金がなくて用意できない。それに怒った伊藤雄之助と嫁が喧嘩になって、興奮した嫁が線路に飛び込んで死んでやる!って騒いで、線路で家族みんなで号泣です。
いやー、今、ストロングゼロみたいな強い酒をあおって意識不明になるぐらい酔わないと、毎日毎日辛くて仕事なんてやってられないみたいな話聞きますけど、昔からそうなんだな。酒を飲まなきゃやってられない世の中なんだ、今も昔も。
娘と駄菓子屋の二階を曲がりしてる先生との交流が描かれたりもします。先生は若くて美人で娘もなついてよくしてくれてるんだけど、異動で別の学校行っちゃう。
伊藤雄之助の給料は手配師がいい加減なのかちゃんと支払ってもらえない。こりゃどうにもいかんねと、夜逃げです。
それで家族みんなでリヤカーで家財一式引っ張って夜逃げしてると、向こうから同じように夜逃げしてる家族がやってきてすれ違うのが笑える。昔ってツケ払いだから、つけをためて首が回らなくなったら夜逃げするって、そんな珍しくないんだろね。
あと若い丹波哲郎が出てきて英語でペラペラ言うのがおもしろい。ホステスやってる女をだまくらかして生きてるキザな男って感じで悪い男なんだ。丹波哲郎にひっかかったホステスは自殺をはかる。
まあ、そんな感じでさ、貧乏でお金なくて、病気で死ぬ人がいたり、家が貧乏だからホステスする子がいたり、そういう子をだます男がいたり、その日をやりくりするのが精一杯だけど、家族がいるから笑顔でがんばれるよみたいな。
監督は中川信夫なんだ。中川信夫といえば「地獄」のイメージだけど、こういう人情モノも撮ってるんですね。