でもこれが新作として今公開されたら、なんだこりゃ?ってなるけど、昔の映画だからそれが味に思えるみたいな。
高倉健が新幹線に時速80キロ以下になると爆発する爆弾を仕掛ける。止められない新幹線をどうさばくのか、警察は犯人を捕まえられるのか、爆弾は解除できるのか、サスペンスが大渋滞。
司令室の宇津井健がいい演技してましたね。この映画の中では宇津井健が演じたキャラクターがいちばん共感できたなあ。
犯人グループは3人です。
高倉健は中小企業の社長やってたけど、不景気で倒産。資金繰りで親戚やらなんやらまで金策したけど無理で、嫁は愛想つかせて実家に帰って離婚です。
山本圭は全共闘くずれで、内ゲバで仲間から攻撃されたことがショックに思ってる男で、高倉健に拾われる。
若者がもう一人仲間なんだけど、集団就職で沖縄から上京したけど、勤め先が倒産で露頭に迷ってるところを高倉健にひろわれた。
この三人が三人とも、敗北者。経済発展していく日本の恩恵をまったく得られず、社会からいらない存在として捨てられた男たちです。
郷鍈治もいるんだけど、こいつは仲間じゃなくて高倉健たちがなにか企んでるらしいのを嗅ぎつけておれもかませろとからんでくるやつ。
負け犬が、繁栄の象徴である新幹線を人質に大きなモノ、国家だったり権力だったりに戦いを挑むという構図になっています。
だから、敵である警察がめっちゃ悪く描かれてるんだよなあ。警察は端から高倉健とまじめに交渉するつもりがない。新幹線の乗客の命をあまり真剣に考えてない行動を取り続けます。
大学生の柔道部がランニングで通りかかって、おーい、そいつが新幹線に爆弾を仕掛けた犯人だ、捕まえてくれ~って頼む有名なシーンがあるけど、そんなバカなっていう行動じゃないすか。
身代金の受け渡しが完了したあととか、爆弾の解除ができたあととかなら、百歩譲ってわかるけど、お金の受け渡し中に、通りがかった柔道部に頼むってクレイジーすぎる。
身代金の受け渡しができず、逃げるバイクの若いやつが警察の過剰な追跡で事故って死亡。
宇津井健もびっくりしてましたよね。こういうときのセオリーは犯人の要求をきいて、それから逮捕を考えるんじゃないですか、どういうことだってめっちゃ怒ってた。
そういうまともなツッコミいれられても、まあまあ、落ち着いて、犯人は複数だ、チャンスはまだあるとかなんとか言ってる警察がほんとにクレイジー。
山本圭を見つけてすぐに撃つのもクレイジーだし。国家や権力は人質の無事なんか考えない。権力に歯向かってくるやつを倒すことしか頭にないというふうに描かれています。
日本政府は、爆弾解除ができそうもないから、周囲になんもない田舎で新幹線を停車させろという決定をあっさりする。
乗客千人は残念だが、市街地で爆発でもしたらそれこそ大規模な被害がでる。大事になる前に多少の犠牲は仕方ないっていう考え。
大きなモノが守れれば、小さな存在はどうなってもいいという理論。
ラストもそうなんだよ。
もう逃げ場もない、逃げられない高倉健を空港で射殺するでしょ。丹波哲郎が撃て~!って、なんでやのん?って。
もう逃げられないんだから、逮捕すればいいのに。
これはわざとそういうふうに描いているんだろなあ。国家に反逆したものは、裁判すらうけさせない。その場で処刑する、それが国家だっていうのが見せたいんだろう。
大きな存在に歯向かったものがどうなるかっていうのを見せしめにする。それが権力。国家だっていうふうに見せたい。
この映画を見てると、新幹線が爆弾で止まれないというサスペンスが見せたいのではなくて、国家が個人をないがしろにする世界だというのを見せたいんだなって感じます。
爆弾のサスペンスはけっこう雑な感じするんですよ。
解除方法を書いた書類を預けた喫茶店が偶然の火事になって全部燃えちゃうとかさ。いや、それ雑すぎるだろって。
不慮の事故で解除方法が手に入らない展開を作りたいのはわかるけど、火事で全部燃えるって乱暴すぎる。
それで新幹線の車体下を高速スピードカメラで撮影して、爆弾の位置を特定して解除方法がわかって、コードを切ればいいとわかって切ろうとするけど、手が砂利にあたって失敗とかさ。
いや、そういうスリルの見せ方どうなん?っていうね。
新幹線を並走させて、バーナーを橋渡しで運び込んで、床の鉄板を焼いて、コードに手が届くようにする。最初からコードに手が届かないでよかったような。
コードは2色のコードがつながってたと思うんだけど、お、これは爆弾解除シーンでおなじみの2本のうちどっちを切るのか、赤か青かみたいなハラハラドキドキシーンくるのかなと思ったら、こない。
あっさりコード切断で解除。やってほしいけどね。砂利が手にあたってコードを落としちゃうとかやらずにこっちをやってよ。
いやー、久しぶりに見直すと、けっこう印象が変わりました。
昔見たときは、止まれないサスペンスがけっこうあったように思ったけど、今回見たら、そこは薄かった。
やたら国家権力が弱者をないがしろにして、権力自体を守ろうとするのか、そういう部分が印象に残りましたね。
あとはやっぱり宇津井健かなあ。この人が一番まともだなと。昔見たときはちょっと真面目すぎというか潔癖すぎないかって思ったけど、狂ってる周囲の状況のなかで、唯一正気をたもってるまともな人だと思えた。
爆弾を1個解除できて喜んでいるところに、写真では不鮮明で爆弾かどうかわからないけど、あやしいのがもう1個ありますってわかる。
みんなお偉いさんたちは、もういいじゃないか、それは爆弾じゃないよ、止めようというんだけど、宇津井健だけは安全が確認できるまでまだ止めるべきじゃない、爆弾かどうか確認しようと主張する。
まあでも押し切られるかたちで新幹線を止める。そして爆弾じゃなくて無事でよかったってなるんだけど、宇津井健は辞表を出す。
あの止めると決めたときに、自分は乗客の命を捨ててしまった。結果助かったけど、それは結果論でしかない。だからもうこの仕事を続ける資格がないと。
いやー、これぞまともな感覚です。昔見た時は、真面目すぎるよって思ったけど、今回見たら、宇津井健以外はどいつもこいつもまともじゃない、クレイジーすぎてびっくりした。そのクレイジーさを普通に思って見てたから、宇津井健が真面目すぎに見えただけだった。
犯人の高倉健たちは、もちろんまともじゃないし、警察もまともじゃない、政府もまともなじゃない。
宇津井健演じるあの男だけが、この映画の良心ですね。