容姿の良し悪しによって、周囲の態度がぜんぜん違う。容姿のよくない自分は存在すら気づいてもらえない。無視される。
美人だとナンパはしょっちゅう、予期せぬおいしい思いも珍しくない。そういう経験をずっとしてきたから、ルッキズムに脳が支配されてしまってます。
主人公は容姿はいまいちかもしれないけど、おもしろい性格してるし、仕事もできるし、魅力ある人なんだけど、容姿に自信がないことで、全然自分に自信がもてないでいます。
鏡に自分のボディーを映してみて、しんみりと、
見た目がなあ~、この膨らんだウエスト、足デカ、ぽっちゃり、どうにかなんないかなあと思ってて、ジムにいってエアロバイクこいでみたりするけども、簡単に痩せたり、容姿が良くなったりはしない。
ある日、トム・ハンクスの映画「ビッグ」を見てて、主人公の男の子が願い事をしてるシーンをみて、自分も願い事をしようと思いつく。何やってもダメと諦めたら、お祈りです。
噴水にコインを投げ入れて、美人になーれって願ってみるけど、なんも変わらずやっぱりダメかと落胆。
そしてジムでエアロバイクこいで、転倒して頭をうって気絶して目覚めると、さあ大変。鏡で自分の顔や身体をみると、理想の美人に変身していたのです……、って主人公にはそう見えてるんだけど、実際は何もかわってない。
主人公だけが自分の容姿がかわったと思ってて、実際は変化してない。頭を強打したことで、普段からあまりにも強く思い続けていた美人なわたしのイメージが、彼女の中で実体化してしまったってことかな。
この変化は映像では見せてくれないので、どういう感じに彼女には見えているのかはわかりません。
そこから、主人公は自信満々に行動する。容姿が良ければ、見た目がいけてれば、と思い続けていた鬱憤が爆発する。
美人のわたしに世界は夢中だわって。
出来事すべてをポジティブにとらえる。順番待ちの番号を聞かれただけなのに、電話番号を知りたいのね、じゃあ、電話番号交換しましょ、わたしみたいな美人だから声かけたくなるのも無理ないわねみたいな。
男のほうは、彼女の自信満々な態度に恐怖を感じながらも、おしきられて番号交換しちゃうとかね。
仕事は化粧品ブランドのネット部門で働いてて、冴えないシステムエンジニアの男とチャイナタウンの地下室で勤務。いつかはキラキラな本社で働きたいと思ってたけど、自分みたいなのがあんな美人の巣窟みたいなところに行けないと気後れしていた。
それが超絶美人になったと思い込んでるので、本社の受付係の募集に応募して合格します。容姿はぜんぜんダメなんだけど、彼女の自信にあふれる堂々とした態度と、発言をきいた社長のミシェル・ウィリアムズは採用する。
美人になったと思い込んでから、彼女の人生は仕事も男も順調そのものになります。
まあ、ちょっとどうかと思う描き方もあったけどね。コインランドリーで電話番号交換した男と初デートで、バーでビキニコンテストやってるのを見た彼女が飛び入り参加する。
水着ももってないのに、Tシャツをまくりあげて、これでいけるわ、優勝はもちろんわたしよって。参加者はモデル体型の美女揃いなんだけど、自信満々な喋りと、自信に満ち溢れた自己表現のダンスで観客を魅了して会場は沸きに沸く。
男も唖然として、君は最高だ、すごいってなるんだけど、いや、怖くないスカ?下品すぎるだろってちょっと思ったけどね。
それからどうなるかと。
まあ、最後のまとめ方はかなり適当というか、強引というかで、いまいちな終わり方でした。これでうまくまとまるとは思えないっていう終わり方してた。
自分がポジティブになるのはいいんだけど、見た目で他人も判断するようになって、いけすかないやつになっていく。
友達と仲悪くなる、容姿がもとに戻ったと思って逃げ出して仕事を失う、自信がなくなって彼氏と別れるとか転落していきます。
何もかも失うけど、新作の発表会で大演説をみんなの前でして、わーって大ウケして感動のフィナーレみたいな。
コメディ映画でよく見る感じのしめくくりかたです。関係者が集まったところで、感動のスピーチをして、うまくいきましたみたいな終わらせ方。よく見るなあ。
この映画を見て思ったのは、いかに自信をもつことが難しいのかっていうことっすね。
容姿もそうだけど、なんでも、自信をもつことって難しいですよね。自信というか、自分が自分であることを自然に受け入れるということが難しい。
なぜそんな当たり前のことが難しいのかって思いますよね。
あれが足りない、これが違う、ああだったら、こうだったら、つねになにかが足りないと思って生きている。
今の自分じゃダメですよって、つねに問いかけ続けてくる社会だから、この呪縛はそうそう解けない。親や兄弟、友人や先輩や後輩や学校、仕事、宣伝、なにからなにまで、今のままでいいのかい?もっと変わらないとダメじゃないかと脅迫してくる。
これは根深い。
この映画の主人公みたいに、脳の回路がかわって、自分が理想の姿になったと思いこめて、美人クラブの仲間入りできても、ルッキズムから脱することはできない。美人だから気にしないじゃなくて、美人だからさらにルッキズム地獄になる。
どうやってもなかなかルッキズムの呪縛からは逃れられないだろね。
結局は、最後の演説で彼女が言ってたけど、わたしたちは今すでに美しいのだと強く思う、それしかない。それしか対抗手段はない。
まあ、難しいですね。現実は。