監督は永井聡。原作は呉勝浩。酔っ払って酒屋の自販機を壊したことで連行された佐藤二朗が取調室で刑事の染谷将太に取り調べされる。名前はスズキタゴサク、住所もなにもわからないという佐藤二朗。
のらりくらりととらえどころのないことを喋る佐藤二朗だが、霊感があるといいだし、秋葉原でなにかおきると予言。そのとおりに爆弾による爆破騒ぎがおき、さらには東京ドームでの爆破も予言。
重要参考人としてスズキタゴサクの取り調べを本庁の強行班から派遣された渡部篤郎と山田裕貴が引き継ぎ、スズキタゴサクとの対決が始まるって感じです。
取調室でのシーンがメインですけど、ほかに外回りの警官役で伊藤沙莉、坂東龍汰が出てくるし、染谷将太も外でうろうろするので、密室劇というわけじゃないです。
見る前は、謎の爆弾犯と刑事が取り調べ室で、知恵比べして爆弾を食い止めるミステリーサスペンスかと思ってたんだけど、そうじゃなかった。いや、形としてはそうなんだけど、描かれ方が、そういう事件もの、刑事ものとは違う。
爆弾はどんどん爆発していく。刑事は食い止められない。
犯人の佐藤二朗が謎の存在のまんまで終わる。謎の存在。用意周到な爆破計画、刑事との心理戦でみせる人を誘導していくうまさ、なにかすごいバックグラウンドがあるとしか思えないんだけど、そこは謎のまんま。そして結局正体不明で終わる。
佐藤二朗は人間じゃないんだろね。スズキタゴサクって、名無しの権兵衛ってことでしょう?ジョン・ドゥっていうことでしょう?一応、ホームレスだったっぽいという経歴みたいだけど、それ以前になにしてたとか、なにを思ってこの計画をやってるのかとか、人間としての細部の描写がされない。
名探偵コナンの推測はあるけど、実際どうなのかはまったくわからないまま。
どういう人間、どういう経歴なのかさっぱり想像がつかない。だからこれは悪意とか破滅願望とか、誰にでもあるそういうどす黒い部分を擬人化したキャラクターということなんだろなっていう感じ。
悪が人間のかたちをもって出現したのがスズキタゴサク。
悪魔とかさ、そういうやつ。だから、この映画は刑事もの、犯人探し逮捕もののフォーマットを使って、観念的なドラマをやってるやつなんだ。頭脳戦とかじゃないんすよ。
爆弾の場所や時刻は、佐藤二朗が出す言葉遊びのヒントをとくしか、知る方法がないので、刑事は最初から負けている。なにか交渉したりとか、揺さぶりかけて聞き出すとかもありません。完全に受け身。
頭脳戦やってる風に刑事はやってるけど、まったく勝負にはなってない。
悪魔と人間が知恵比べして人間が勝てるわけない。頭脳戦でもなんでもなく、ただただ悪魔に翻弄される人間という感じです。
観念ドラマ。佐藤二朗はこの爆弾騒ぎの首謀者っていうわけでもないらしいです。爆弾計画はもともとオナニー刑事の息子が計画して爆弾も作っていたらしくて、佐藤二朗は最後にのっかっただけらしいという刑事の推理。
ここまで完璧に人の計画にのっかって、さらにアレンジまでして実行するなんて人間業をこえている。なにかすごい理由があるとか、なにかすごい経歴があるとか、動機があるとかあきらかになって、ちゃんちゃんってなれば、これは東野圭吾ミステリーみたいなものになるんだけど、そうはならないのがこの映画。
普通の刑事対犯人の頭脳戦サスペンスものにはならない。犯人に他人には理解されない強い動機があってそれが人情噺になるみたいな展開だったら東野圭吾ミステリーみたいになるけど、この映画ならないし。
だから、途中から、なんだそういうことかって思って見てました。悪に翻弄されて右往左往する人間の話をやってるんだなって。
ところどころ展開がおかしいというか、なんかリアルな感じしないなというか、な感じがするのは、これが悪の勝利に抗おうとしてがんばるけど負けるしかない人間を描こうとしてるからだなと。
だからこの映画を普通の刑事ものの犯人との頭脳戦映画だと思って見る人は、なんかおかしくない?この話、佐藤二朗なんなんだよって不満を感じてイマイチになっちゃうかも。
こんな行動おかしいだろっていちいち気になっちゃうかもね。
前半は普通の刑事VS犯人っぽい感じするんだけど、後半はどんどん観念になっちゃう。
ネットの描きかたも観念だなあ、リアルじゃない。クリック数が一定数をこえたから、次の爆弾が爆発します、軽い気持ちで笑ってクリックしたあなたたちが爆弾のスイッチをおしたようなものですと言われて、あわててアカウント削除とかしてあたふたする若者たち描写とかさ。
リアリティまったくない、観念描写だし。
伊藤沙莉が取調室にいきなり乱入してくるとかさ。なんか笑っちゃったけど、コントみたいで。渡部篤郎とか見てみぬふりでほっといてるし。ワンチャン伊藤沙莉がこいつ撃ち殺したらいいのになあって思ってたのかな。
いやー、なんだこりゃ?っていう展開が多いから、観念ドラマだと思ってみなくて、これがリアルな刑事ものって見てると、めちゃくちゃだ。
突如取り乱す渡部篤郎。イキりだしたり落ち込んだり、忙しい髪モジャメガネの名探偵コナン山田裕貴とかさ。山田裕貴はなんなんだろう。頭いいやつっていう設定みたいだったけど、クイズが得意なクイズ少年にしか見えない。
避難解除とかもさ、一応時間までは解除しないだろとかさ。爆弾騒ぎが連続でおきてて、駅にあるかもってなってるのに、さっさと電車乗せろって群衆が騒いでる。いや、乗りたくないだろ。
あと一歩のところで、残念でした~ってなる展開を無理やりやってます。あがいても負けてしまう人間というのを見せる。愚かさゆえに負けるみたいな描写をやるために、愚かな行動をさせている。
リアルなやつじゃないんだ。悪意の圧倒的なちからの前に敗北するけど、それでもがんばるしかないと負け惜しみを言う人間のドラマ。
セリフとかでもそういう色が濃い。名探偵コナンも言ってたし、自分ならこの計画をもっとうまくできたけどやらない、なにかを壊すよりそれを食い止めるほうが難しいから、そっちをやるみたいなこと。
世の中クソだからどうにでもなっちまえって思ってるけど、そこで踏みとどまってるのが人間だみたいなやつ。悪意に翻弄されて負ける人間たちだけど、それに抗おうとがんばりますみたいなのをやる。
最後もさ、名探偵コナンがこの事件の発端はこういうことだったんじゃないかっていう推理を披露するけど、それは推理でしかなくて真実ではないわけで。
負け惜しみでしかない。爆弾は爆発しまくって、犠牲者はたくさんでまくってる。なおかつ佐藤二朗の経歴も素性も動機もわからずじまい。
山田裕貴がおれは逃げないよ、残酷からもなんとかかんとかって、かっこつけて綺麗事をならべたてる。ただの負け惜しみ。
染谷将太がおれはそれを不幸せだとは思わないよとか、自分に酔ったこという。ボロ負けしたやつがなにいい雰囲気だしてんだよとしか。
結局、悪の前では人は言い訳して負けたことを見てみぬふりしてやりすごすしかないんだっていうむなしい話を刑事ものの形でやってる映画。
最後の爆弾は見つかってないっていうしめくくりも、悪意や悲惨なこと、破滅への道は、いつでもそこにあっていつ爆発するかわからないんだぜっていうわけだ。
観念ドラマなんだよなあ。ストレートな犯人と刑事の頭脳戦が見たいっていう人には、ちょっと肩透かしだったろうね。
勝ち負けの話じゃないんすよねえ。最初から負けている。人間は負けるしかない。悪意と対峙したときどうするのか。そういう状況でどうするのか。そこで負けたとやめるのか。負けたけどまだまだ~って戦い続けるのか。
追い詰められて、負けて、諦めそうになるけど、また立ち上がって戦うみたいな描写が繰り返される。渡部篤郎がもうやめるっていうけど、説得されてまた戻ってくる、伊藤沙莉が暴走して謹慎になるけど、やめんのか続けんのかって言われて、またすぐに現場復帰する。
くじけてもくじけてもあきらめない、それが人間みたいな。爆弾で両足ふっとばされて死にかけた警官も命はとりとめてたみたいだし。
悪魔が人間が右往左往して負ける姿を楽しみ、それでもまだ続けるという悪あがきをする様を楽しみ、負け惜しみを言うのをニヤニヤして楽しむ。これこそが人間の本質だ、いいもの見せてもらったよって。
佐藤二朗は刑事たちが感情むきだしであたふたするときに、ほんとうれしそうだったもんなあ。そう、それ、これが見たかったんだ~みたいな。伊藤沙莉が感情むきだしで襲いかかってくるのをみて、いっちゃいました~ってタゴサク言ってたね。
佐藤二朗が最後、ニヤニヤして山田裕貴や染谷将太と話をするのが、悪魔がさんざん人間の愚行と言い訳を楽しんで満足したみたいに見えた。それまで名前をちゃんと呼ばないのに、最後はちゃんと名前を言うのも嫌味だなあって。
もうお腹いっぱい。虚栄心から単独行動して失敗、頭がいいと自惚れて失敗、自己保身優先で失敗、失敗してもまだあきらめないという往生際の悪さ、数々の人間たちの愚かな行動を見せてもらって満足満足みたいな。
なんか不思議な映画だったなあ。犯人にいいようにされるっていうのは、なんかフィンチャーの「セブン」っぽいし、悪が人間を翻弄するっていうのは、ノーランの「ダークナイト」っぽいし、取調室で犯人の意味のない話を聞かされるのは「ユージュアル・サスペクツ」っぽい。
ボタンを押すと誰かのとこに爆弾がっていうのは、リチャード・マシスンの「運命のボタン」かな。
見終わってキャストのところを見たら、加藤雅也ってあったので、え?どこに出てたんだろうって思ったら、あの犯行現場でオナニーしちゃう癖の刑事役だった。ぜんぜん気が付かなくてびっくりしたよ。